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一人でお留守番しなくてよくなった時の幼子のような伊織の顔。普段一人ぼっちでも全然平気なくせに、たまに無防備な表情を晒されると、この子のためになんでもしてあげたくなってしまう。
「ね?美月も帰らないでしょう?三人で年越ししようよ」
わたしが呼びかけると、だらけた姿勢でソファにもたれて雑誌を読んでいた美月がちらりとこちらを見て、ああ、いいよ。とどうでもよさそうに返事をした。でもその口元には、そこはかとない笑みが浮かんでいる。
伊織と美月と暮らし始めるまでは律義に年末は実家に帰っていたので、実家で過ごさない大晦日と言うのは人生で初めてだ。わたしはなんだかわくわくした。大人になることの醍醐味は、大晦日をどこで誰と過ごすか自分で決められることだね、とはしゃいでいると、なんじゃそりゃ、と美月が笑い飛ばした。随分と控えめな醍醐味だな。
控えめだなんて、そんなことない。誰とどう過ごすかを自分で決められるというのは、おそらく人間に許された最大の贅沢なのだ。美月は分かってないのだ。それがどんなに尊いことなのか。
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