Ⅰ. 桜子

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 だからお前らもさ、今から何十年も経って今を思い出すときにさ、きっと、ああ、あの時ラジオがかかってる部屋であのイケメンと一緒に過ごしたなって、思い出すって。  イケメンって誰のこと?わたしが尋ねると、美月は冗談だろ?と顔を顰めた。目の前にいるだろが。絶世の美男子がよ。ふふふ、とわたしは思い出し笑いをする。美月は確かに美男子だ。でも彼のすごいところは見た目ではない。自分のことを美男子だと言い切っても許されるその天真爛漫さと、本当は見た目になんか全然価値なんてないことを誰よりも良く分かっているところなのだ。 「お前、ちょっとは手伝えよ」  伊織の声がしたので振り向くと、美月がソファに座ってゲームのディスクをセットしたところだった。伊織自身は水を絞ったカーテンを山盛り腕に抱えて、ベランダに運び出そうと苦戦していた。画面に映し出されたのは、しばらく前に流行ったロールプレイングゲーム。勇者とか魔法使いとか賢者とかが、パーティーを組んで役割分担をして一緒に敵を倒していくものだ。プレイしている途中なのにディスクが無くなった、としばらく前に伊織と美月が大騒ぎしていた。 「なにそれ、どこにあったんだよ」 「おう、そこの雑誌の山はぐってたら下から出てきた。ちょっとやってみようぜ」 「いやいや、ぼくら今掃除してるところでしょ」
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