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ねえ、さくらこちゃん。そう言って伊織がこちらに助けを求める。まるでしょげ返った子犬のような表情に、思わずよしよし、と頭をなでてあげたくなる。
「掃除終ってからやればいいじゃん」
「バッカお前、こういうのは思い立った時にやるのが一番おもしれえんだよ」
「お前掃除したくないだけじゃんか」
「掃除なんかな、やりたい奴がやればいいんだって」
「あーもうわかった。お前もうリビング出禁ね、出禁」
わたしは、きゃんきゃんと言い合う二人の姿を心に収めるように、じっと見つめた。気付いた伊織が、さくらこちゃん何やってんの?と問いかける。
「おバカ二人を眺めて心の中で笑ってる」
そう答えると、ひどいなぁ、とむくれてみせた。つけっぱなしのラジオから、曲が流れ出す。美月がサビに合わせて伸びやかに歌う。
過ぎ去った日々を懐かしむ歌。もう戻れないことが分かっているのに、人はいつだって後ろを振り返ってしまう。
「美月、次のライブいつ?」
「来月。お前ら見に来いよ。」
「えー美月の歌聴いてもな。家でいつも聴いてるしな」
「バッカ、お前。音響がいいところで聴いたら感動するって」
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