Ⅰ. 桜子

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 つったって、所詮美月でしょ。言い捨てた伊織の耳を美月がきりきりと捻り上げる。 「痛いって、やめろよまじで」  ははは、と美月の明るい笑い声が響く。穏やかな、一年の終わり。光に溢れた、温かい物語の一場面のようだ。  結局大掃除は有耶無耶のうちに終わって、気づけばもう午後だった。 「おいまじかよ、もう二時じゃねえか」 美月が大声をあげた。 「腹減ったし、昼飯買うついでにコンビニで年越し蕎麦買って来ようぜ」 「えー寒いから外出たくない。ぼく留守番するし二人で買ってきてよ」 「わたしだってやだよ。三人で行くか、三人とも行かないか、だよ」 「なんだよその出来損ないの三銃士みたいの」 「ほれ、いいから上着着て靴履けって」  お前らは出不精過ぎるんだよ、とぶつぶつ言う美月に背中を押されて、わたしたちは部屋を出た。ドアを開けた瞬間に、つんとする冷たい空気が顔を撫でて、肺に入り込む。一瞬の爽快感の後に足裏を伝って冷気が体中を覆う。 「うわ、やっぱ寒い」 「さくらこ、お前その手袋貸せよ、さみーわ」 「いやだよ、ばかじゃないの?」
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