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つったって、所詮美月でしょ。言い捨てた伊織の耳を美月がきりきりと捻り上げる。
「痛いって、やめろよまじで」
ははは、と美月の明るい笑い声が響く。穏やかな、一年の終わり。光に溢れた、温かい物語の一場面のようだ。
結局大掃除は有耶無耶のうちに終わって、気づけばもう午後だった。
「おいまじかよ、もう二時じゃねえか」
美月が大声をあげた。
「腹減ったし、昼飯買うついでにコンビニで年越し蕎麦買って来ようぜ」
「えー寒いから外出たくない。ぼく留守番するし二人で買ってきてよ」
「わたしだってやだよ。三人で行くか、三人とも行かないか、だよ」
「なんだよその出来損ないの三銃士みたいの」
「ほれ、いいから上着着て靴履けって」
お前らは出不精過ぎるんだよ、とぶつぶつ言う美月に背中を押されて、わたしたちは部屋を出た。ドアを開けた瞬間に、つんとする冷たい空気が顔を撫でて、肺に入り込む。一瞬の爽快感の後に足裏を伝って冷気が体中を覆う。
「うわ、やっぱ寒い」
「さくらこ、お前その手袋貸せよ、さみーわ」
「いやだよ、ばかじゃないの?」
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