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おしくらまんじゅうをするように、三人で肩を寄せ合って最寄りのコンビニまで歩いた。一年の終わりの日には人々は家に籠っているのだろうか。街はしん、として静かで、打ち捨てられた灰色の水彩画のようだった。美月がわざと体当たりして来たので、わたしはよろけて伊織にぶつかる。
「痛いって。美月まじでやめろよバカ」
「そうだよ痛いよ」
声を合わせて言うと、美月がかかか、と笑う。
「蕎麦、じゃんけんで負けたやつの奢りにしようぜ」
「さんせーい」
「やだよ、ぼくじゃんけん弱いの知ってるくせに」
伊織の抗議を聞こえないふりをして、出さなきゃ負けだよ、と声を張った。
じゃんけんぽんっ。あいこでぽんっ。
毛糸の手袋をはめたわたしの手、華奢な伊織の手、ごつごつして指の長い美月の手。その日はなかなか勝負がつかず、わたしたちは何回も何回もじゃんけんを繰り返した。やがて、可笑しくなってきてわたしは身体を折り曲げてくくく、と笑う。その笑いは他の二人にも伝染して、笑い転げながらコンビニへの道を辿った。
世界には、わたしたち三人しか存在していないのだ、そんな錯覚をしてしまいそうだった。
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