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「ねえねえ、私カップラーメン食べるけど、伊織もいる?」
「まじで?ありがとう。そうしたら、からめのやつをお願いできますか?」
「りょうかーい」
伊織はいつもとても丁寧にものを頼む。その度に、わたしはなんだか張り切ってしまう。
からめのやつ、か。薬缶にお湯を沸かしている間に三つのカップラーメンの味をそれぞれ吟味していると、玄関の方でガチャリと鍵が回る音がした。帰って来たな、と思う暇もなく玄関から廊下を通ってキッチンへと続くドアがガチャリ、と勢いよく開いた。
「うあー、やべー疲れた」
全然疲れていなさそうな、朗らかな声を上げて美月が部屋に入ってくる。部屋の中の空気が一段階明るくなった。お帰り、とわたしはカップ麺を手に持ったまま振り返る。
「何、カップラーメン?俺も食う」
後ろからわたしの手元を覗き込む美月の首元から、外の世界の爽やかな匂いがする。美月はいつも、光をまとっている。
「俺、これにするわ」
「ちょっと!それわたしが狙ってた新発売のやつ!」
肩を落とすわたしの頭を、美月はぽんぽん、と叩く。「わりぃな」と悪びれずに言ってカップを受け取る。こたつに座る伊織を軽く足で押しのけて、自分のスペースを作り、そのまますとん、と伊織の隣りに腰を下ろした。
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