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「お前、もしかして徹夜でこれやってんの?」
「うん、まあね。もうちょっとでクリアできそうなんだよ」
「まじか、俺にもやらせろよ」
「はいはい」
伊織が余っていたコントローラーを美月に手渡して、美月は嬉々としてそれを手に取った。隣り合ってゲームの画面に向き合う二人の背中を、わたしはシンクに寄りかかって静かに眺めた。伊織の柔らかい茶色い髪、小柄な頼りない背中。美月の短い黒い髪、骨ばった広い背中。それからだらんとした長いTシャツを着た自分の体を見下ろす。あまり大きくはないけれど、それでもわかる胸の膨らみ。Tシャツから伸びる白くて細い脚。ふと、頭の中に夢の中の台詞が蘇る。
「見た目以外取り柄がない、か」
伊織が、なんか言ったー?とこちらを振り返る。
「なんでもなーい」
返事をしてから、コタツの水飲み場の水を入れ替えた。
コタツは、わたしたちと一緒に暮らしている愛嬌のある真ん丸な目をした雑種の猫だ。聡明な猫で、たまに本当にこちらの言葉が分かっているんじゃないかとドキリとすることがある。今だって、心配そうに私の顔を見上げてくるので、わたしは「大丈夫だよ」とそっとコタツの頭を撫でた。コタツがニャア、と返事をする。
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