1.ビンボー映画を楽しもう

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『ターミネーター』1984年  ジェームズ・キャメロンはロジャー・コーマンのスタジオで長いキャリアがあった。多くの映画でセカンドの監督やカメラを担当した。  独立して、自分の作品を作ろうと思い立つ。 『ランボー2』の脚本で名を上げ、いよいよ準備が整った。  その前年、『ターミネーター』の仮題で脚本を書き、アーノルト・シュワルツェネガーと話していた。未来から来た戦士の役、大いに乗ってくれた。その時は貧乏だったキャメロン、ランチ代はシュワルツェネッガーに払ってもらった。  当初、未来から現れた殺人機械ターミネーターは、『狼たちの午後』でマーフィー捜査官を演じたランス・ヘンリクセンとされていた。眉も動かさずにサルの眉間を撃ち抜いたのは、正しくターミネーター。  次々と姿を変えつつ、あらぬ方向から襲いかかる・・・そんな設定だった。  が、新人監督にとり、最も手強い敵は低予算であった。  姿を変える敵をあきらめ、姿は一定とした。  ならば、とシュワルツェネッガーを殺人機械の方に設定し直した。ヘンリクセンは警察署の刑事として、チョイ役のあつかいとなる。  冒頭のミニチュアのショット、頭蓋骨が並ぶ荒野だ。  オモチャ屋から骸骨のペンダントを買い集めた。1個1ドルほどのやつから、頭を取ってテーブルに敷き詰めた。薄暗い画面、長時間露光で被写界深度を深くしてあるから、人の目は実際の大きさを判別できないはずだ。  本編の撮影は駐車場の場面から始まった。  カイルがサラを連れてクルマを物色する。パトカーを奪ったターミネーターが追って来る。  カーチェイスが始まる。  が、建物に傷は付けられない。柱の前に廃車を置き、それにぶつけて方向転換した。派手な衝突場面が撮れた。  逃げるクルマは夜の町に出た。歩道に上がって走る。  ゴミ箱は蹴っ飛ばすも、他には何も当たらずに走り過ぎた。修理費は出せないので、細心の注意を払って走り抜けた。  コマ落としで撮影したので、スピード感はたっぷり。夜間の照明も少なくできた。毎秒16コマまで落として撮ると、人は気付くらしい。毎秒20コマで撮れば、ほとんど気付かれない。ジョン・フォードが『駅馬車』で使った裏技だ。  行き止まりの壁にクルマがぶつかる。でも、壁の前には謎の箱が山積みされていて、それに突っ込んだ。公共の施設に傷を付けずに、チェイスシーンを終えた。  サラ・コナーは警察に保護される。  ターミネーターが追って来た。  注意して見れば、ターミネーターは長くもない廊下を行ったり来たりしてるだけ。予算的に大きなセットは組めなかった。途中、電気を落として雰囲気を変えた。  ターミネーターがタンクローリーに乗り、カイルとサラを追う。  大爆発!  普通に考えれば、周囲の街とか家も大被害を受けたはず。でも、それは映さない。そんな予算は無い。  燃える残骸の中で抱き合うカイルとサラ、復活するターミネーターに画面を集約した。  公開されるや、『ターミネーター』は大ヒットした。  アーノルト・シュワルツェネガーは悪役もできる俳優として名を上げる。  ジェームズ・キャメロンは自らシナリオを書く監督としてキャリアを積み始めた。  そして10年後、やり残したアイディアを実現すべく、キャメロンは大予算で『ターミネーター2』を作るのだ。さらに大ヒットとなった。
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