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1.ビンボー映画を楽しもう
『007 ドクター・ノウ』1962年公開
これが実は、低予算のビンボー映画なのだ。
プロデューサーが資金をかき集め、原作小説の映画化権を手に入れた。『007』シリーズの中から、最も低予算で作れるだろうとしてピックアップしたのが『ドクター・ノウ』だった。
監督はテレンス・ヤング、直近に作品が無くてビンボーしていた。なので、ギャラを最低に抑えられた。
主演俳優に、監督はロジャー・ムーアを望んだ。が、ギャラが高いので却下。後に、スケジュールが合わなかったと口裏を合わせた。
テレンス・ヤング監督の作品で端役を務めたショーン・コネリーを起用する。ギャラが最低で済むぞ。
問題が山積みだった。
コネリーには主役の経験が無い。監督は・・・主役は演技するな、画面のど真ん中で立っていれば良い。演技などは脇役がする、とした。
かくて、ジェームズ・ボンドは眉も動かさずに拳銃を撃つ。殺しの番号を持つ男ができた。
それでも、主役ゆえ、少しは演技しなくてはならない。
映画冒頭のカジノの場面、ジェームズ・ボンドは自己紹介するセリフがある。
が、コネリーはあがってしまい、声がうわずる、肩が揺れる。クビを覚悟した・・・
休憩時間、コネリーは酒を飲んだ。
これで終わりと・・・ボンド、ジェームズ・ボンド・・・とセリフを言った。
オーケーが出た。
低予算ゆえに、セットは最小限とされた。
ドクター・ノウの基地の飾り気が無いこと。冷血漢の人柄ゆえ・・・と割り切る。
彼の私室のアクアリウムはスクリーンプロセス、魚のフィルムは既存の物を使った。空間の広がりを演出できた。スクリーンプロセスはスタジオの設備、金はかからない。
本当なら、最期は基地を爆破して、大火災を演出したい。でも、そんな予算は無いのだ。
煙幕の中を逃げるシーンを作り、火災の変わりとした。火災シーン用のスタントマンを雇わずに済んだ。消防車を待機させなくて良くなったしね。
ヒロインの衣装は・・・ビキニの水着だけ。安かったね。アーシュラ・アンドレスの肉体美のおかげで、衣装問題はクリアできた。
音楽では、テレビの子供向け番組を担当していたバリー・グレイを雇った。ここでもギャラは安くできた。
こうしてチープにまとめた『ドクター・ノウ』は完成した。
まさかの大ヒットとなる。
第2作『ロシアより愛をこめて』では、1作目では消化不良だった爆発を大量にやる。予算も3倍使ったけど、またも大ヒット。テレンス・ヤングは一流監督と呼ばれ、ショーン・コネリーは人気俳優の仲間入りを果たすのだ。
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