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◇◇◇◇◇◇
手を繫いだ優と星依が校門へ行くと、若く青々とした葉を広げる桜の木の下で壁にもたれる男子高校生が一人。その見目は落ち着きを持って安定した、まさに王子を思わせる出で立ち。星依の彼氏である刈佐依都がそこにいた。
「依都くん! おまたせ!」
星依の呼びかけに、依都が顔を上げて微笑みを浮かべる。少しの距離を置いて笑い合う二人は、まさに誰もがうらやむカップルそのもの。
「僕もちょうどさっき来たばっかりで、大して待ってないよ。星依、今日もお疲れ様」
優とともに歩み寄った星依の頭に、依都はそっと手を乗せる。葉桜の下、二人の周りにだけは未だ薄桃の花びらが舞っているようだ。向き合って「へへっ」と笑う星依とそれに笑顔で返す依都の間には、多くを語らずとも互いを想う確かな反応が存在していた。
(あれって、刈佐先輩と星依先輩だよね?)
(やっぱお似合いだわ~)
(あの仲を超えられる気がしねぇ……)
どこからともなくそんな声が上がる。二年生になった頃から付き合い始めた星依と依都は、飯応学園では知らない者などいないほどの有名カップルだ。付き合いたての頃こそ、陰からこっそりとうらやむささやき声がしていたものの、あまりの似合いぶりに今では皆、隠すこともなく各々の思いを口に出している。
「お前ら、相変わらずだな」
周りにあふれる言葉の数々と共に、企み顔を浮かべた石灰翔が校舎の方から歩いて来た。翔は星依の父方のいとこである。見た目こそ星依に似たところのある翔だが、その口ぶりや声音は儚さを含む星依とは正反対にやんちゃで骨太な少年といった感じだ。
「うりうり~。依都、今日も相変わらず星依ひと筋だな。さっすが安定王子」
翔が依都をからかうように肘で小突く。
「か、からかうなよ翔。王子とか、そんなつもりないって。……ひと筋は、認めるけど」
「――っ! ……あ~はいはいっ、ご馳走様ですね~」
少し耳を赤くしながら返した依都を見て翔は一瞬ひどく傷ついたように目元を苦くゆがめたが、すぐに元の調子を取り戻して依都の方へひらひらと手を振って言った。そのほんの一瞬を、ただ一人、優だけが見逃さなかった。
「さて。みんなそろったし、行こうか」
落ち着いて凜とした依都の声を合図に、四人は歩き始めた。
先を行くのは星依と、隣を歩く頭一つ背の高い依都。
顔を合わせて楽しげに話をする星依と依都を後ろから見守るように、前を向いて歩く優と翔。
前後に分かたれた視線だけが、交わらない。
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