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さよなら
「ナタリアっ!!おい、馬車を止めろっ!早くっ!」
「っはい!」
スピードが落ちていても、馬車から飛び降りるとかなりの衝撃があった。
「ッィタぁぁ…」
って、そんな悠長に痛みを感じてる暇はないのよ!
後ろを振り返ると、すでに馬車は停車している。
早くあの3人から逃げないと。
走るにはこのドレスは邪魔だわ。けど売ったらお金になりそう。ちょっと汚しちゃったけど、貴族が着るようなものだし高く買ってくれるよね。
逃げ切ってみせる。
髪を切って、少年みたいな格好でいれば騙せるはずよ。この国の女性は髪を切る事を好まない。髪が短いのは大概男という先入観は強みだわ。
洋服の店を見つけて、私はそこへ飛び込んだ。
「これ、試着します!それからハサミも借ります!あっ!お姉さんも来て下さいっ!」
こんな服1人で脱げない!どうやって着せられてるのかもわからない!
ブラウスとズボンを手にとって、私は急いで奥にある試着室へ入った。
女騎士は試着室が怪しいと思えば、無理矢理入って来れる。早く着替えないと!!
「代金はその服と交換でお願いします!ちょっと汚れてるけど、きっと生地だけでも相当高い物だから!」
ジャキジャキ…
「お客様!何をっ!?」
「いいの、いいの、きたなくしてごめんなさい。この髪は捨てて下さい。」
借りたハサミで髪の毛を15センチほど切って、あっという間にボサボサのショートボブになった。
着替えをして、髪の毛を切り終わるまで、多分10分くらいしかたってないよね。
女騎士に乗り込まれなくてよかった!!
店のまわりを確認しても、3人の姿はない。
よし、今ならいけるわ。
私は堂々と店から出た。
今着ている服は、男の子のもの。そこにキャスケットを被っていれば、どこにでもいる少年にしか見えないはずよ。
大切なのはキョロキョロしない事。
まわりに溶け込むなら、堂々とするのよ。急いでいるからこそ、焦りを見せちゃ駄目。
さて、次は質を探さないとね。
どうせ家の近辺は見張られてるだろうし、いそいで帰るより山の裏手から登って案山子のところまで行こう。
邸に閉じ込められてなければ、村まで行くのなんて余裕よ。
・・・・
「コーエン、見つけたかっ?」
「いえ、誰もドレスを着た女性など見ていないようです。」
「ユリオ様!コーエン!来て下さいっ!!」
服屋にいたタナカから呼ばれた。
「これ、脱ぎ捨てて行ったらしいです。それに…」
タナカの手には黒髪が握られている。
「髪を切ってますね。男の子だと見過ごしてたかもしれません。」
「年頃の女が髪を切ったのか?」
「なんの迷いもなくだそうです。手強いですよ。おそらく家を張っても無駄でしょう。」
ナタリアの家は潰してある。だがミリア様があの家以外にナタリアに居場所を残していないとは言いきれない。
「ラマナ、あの近辺にローブがあったとしても、普通の方法で取りに行くような性格の子なのか?」
「いや、変装してるだろう。それに、ローブが何処にあるのか、それも検討もつかない。」
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