新しい私

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「お嬢さん、お嬢さん。」 「……?」 ぼんやり目を開けると、知らないお爺さんが私を心配そうに見下ろしている。 「大丈夫か?随分と(うな)されとったが…」 「大丈夫です。」 「そうか、ならよかった。」 「…ここはどこですか?」 いまいち状況が把握出来ないわ。私は何をしてたんだっけ…? 「港じゃ。君は海を見ていて、急に意識を失ったんじゃよ。」 「意識を?」 「船の待合所に連れては来たものの、あまりにも(うな)されとっから気になってな。起こしてしもうた。」 「いえ、ありがとうございます。私はどれくらい気を失ってたんでしょうか…。」 「5時間くらいだよ。」 「そうですか、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません。ありがとうございました。」 何か夢を見ていた気がする。けれど、どんな夢だか憶えていない。良い夢ではなかった気がするわ。 船はまだ来ないし、ここにいない方がいいよね。 次の船は2週間後、その間はどこかにたまらないとね。 とりあえず、安い宿を探そう。 宿を探して歩いているとき、ふと気が付いた。 ……あれ? 私、いつローブ着たんだっけ?気を失ってる時に自分で着れるはずないよね。あのお爺さんが着せてくれたのかしら。 お爺さんはもう帰ったから聞くことは出来ないし、考えていても仕方がないよね。無くなってるわけじゃないんだし、問題ないわ。 港町にはいくつか安い宿があったけれど、男が多いところはパスよ。いくら男装してても、私は女だしね。 となると、綺麗で宿しか空いてないんだよね。…宿泊料は高い。 港にも町にも宿にも、私の姿絵は貼ってある。 どうしても私を魔女にしたいのね…。 たとえ私を殺したからといって、誰かが幸せになれるとは思わないわ。 でも悪魔狩りをする事に意味があるなら、私は永遠に逃亡者。 こんな事になるなら、ラマナに会わなければよかった。 どんなに考えても、今更どうにもならないよね!もう過去は棄てるわ! 今日から名前も変えよう。 ナタリア…改めオリでいいわ。 ……変な名前。 ま、誰かに呼んで貰える事はないんだし、気にする事はないよね。 「ねぇ、そこの君。」 私に声をかけてきたのは、パーティーで私を見張っていた女騎士だった。 「俺ですか?」 「そうだ。いくつか質問に答えろ。まず、今着ているそのローブ、どこで手に入れた?」 まさか、港に女騎士がいるなんて思わなかったわ。 陸路がダメなら海路を使う…考える事は同じなのね。
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