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道化師
団長に言われた通り、私は化粧を落として、ナタリアの姿を見せた。
「……」
「……」
何か反応を示して欲しいのだけど…。
「別人だね。」
「いえ、本人です。」
「わかってるけど、思った以上だと思って。」
それは褒め言葉なのかしら。
「いいよ、入団を認めよう。君には借りがあるし。」
「借り?」
「ミーコ、蛇肌の女の子を救ってくれたのは君だよね。」
いじめられてた…あの時の子かな。
「君のおかげでサーカス団をぬける事が出来た。」
「私の…?」
話がよくわからないわ。
「ミーコは化粧を覚えて学校へ通ってるんだ。ここで見世物になり続けなくてすんだ。礼を言うよ。」
「それはよかったです。」
私のした事で、少しでも幸せになってくれたなら嬉しいわ。
「それだけ化粧の腕があるなら、何かの役にはたつだろう。けど、このサーカスに支障をきたすようなら、すぐに出てってもらう。それが条件だけど、いいかい?指名手配さん。」
「っ!?」
やっぱり知ってるよね。
この人は私が指名手配されてる女だと見抜いたから、素顔になれって言ったのよ。凄い観察眼だわ。
「それでも構いません。その時は警察にでも兵士にでも突きだしてください。けど、そうならない自信はあります。」
「メイク以外に何か出来ることはありそう?」
「さっきも言いましたが、力には自信があります!子供の頃、人を襲った野犬を蹴ったら、そのまま死にましたから…。」
「足は?早い?」
「…早い方だとは思いますが。」
サーカス団で足が速いと何か出来る芸があるのかしら。
「君には猛獣使いの助手を任せる事にするよ。」
「…もうじゅう…」
犬とはレベルが違う気がするけど、断る事は出来ないよね。
「やります!」
「助手といっても、万が一暴れだしたら蹴って殺す役。簡単だよ。」
うん、一切簡単では無いです。
「今回は道化師でもして、一通り流れを見ておいて。風船配り、結構大変だから頑張って。じゃあ、俺はいくね。好きなようにメイクをして、客引きしておいで。」
「はい…」
いきなり放置された…。
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