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サーカスが終わって、次の日には後片付け。
そして、すぐに荷物を持って移動する。大きな荷物は荷馬車へ。細々したものまで全部は入りきらないので、いくつかは団員が持つことになる。
「お前、なかなか重宝するな。その細腕でそんな重いもん運べるなんて。」
猛獣使いのハルさんが感心して話しかけてきた。
「俺は芸が出来ないんで、役に立ってるなら良かったです。」
怪力の私には、荷物持ちは余裕よ。
「わっ!?」
両手に持っていた荷物が突然重くなった。
私の腕力が低下したってことは、もしかして近くにラマナがいるのかもしれない。
「どうしたんだ?急に真っ青だぞ?」
「いえ、何でもないです。」
メイクもしてるし、見た目は完璧に男!見つかるはずない!
5分ほどすると、ラマナが前から歩いてくるのが見えた。
やっぱり、ラマナが近くにいると力が弱くなるっていう予想はあたってたわ。
気がつかれないと思うけど、今日はいつもよりメイクが薄い。完璧に男の子に見えるようにしているけど、ラマナは幼馴染みだし、目が合えばわかるかもしれない。
ううん、絶対に大丈夫よ!!
「…っ!?」
最悪だわ!あの女騎士が一緒にいる…。
私の姿…、港であの女と会った時の顔に似てる。
けどここで下を向いたりしては駄目!
「オリ、どうした?」
「何でもないですよ。それより、ハルさんはいつからサーカス団にいるんですか?」
声は低くして話してるし、喋り方だって変えてる。きっと大丈夫。
「俺は15年だな。」
「すごいですね。って事は、今は何才ですか?」
「30だ。」
「……」
「見えない…と思っただろ。」
「…そんな事は」
「『ない』って言わないのか…。」
「逞しくて格好いいと思います。」
「年齢に関係ないだろ、それは。」
ハルさんがコツンと私の頭を小突いた。
こうやって楽しく団員とお喋りしていれば、見つかりっこない。
「オリ、お前はサーカス団に来るまで何してたんだ?」
「俺は川岸で暮らしてたんですけど、大雨で家財も家族も全部流されたんですよ。だから働くところ探してて、出来るならサーカス団に入りたいと思って。」
…もうすぐラマナと女騎士、2人とすれ違う。
2人とも、いちいち立ち止まってまで私達を確認はしていないけど、横目で見てるのはわかる。
「オリ、アイツって『悪夢殺しのラマナ』じゃないか?」
「そうなんですか?悪魔って…今時そんな馬鹿みたいな話あるんですね。」
「ああ、そんな物、いてもいなくてもいいんだよ。あいつらは、悪魔を探してるふりしてりゃ飯食ってけんだし。」
「なるほど。」
本当、いいご身分よね。
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