猛獣

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猛獣

サーカスに入団してから、既に私は3つの街をまわった。 猛獣使いのアシスタントも少しは馴れてきたと思うのよね。 「ハルさん、俺は成長してますか?」 「まだまだ、気ぃ抜いてたら蹴り殺す前に喰われるぞ。」 「…うぅ」 やっぱりそんなにあまいものじゃないよね。 気合いを入れて、望んだ最終公演。 猛獣ショーが終わり、私はご飯を作っている。 芸が出来ない私には、炊事も大事な仕事よ。 「ん?」 寝泊まりする為にあるテントから声がした気がするけど、まだ皆帰って来てないはずだよね。 チラっと覗いてみると、中には男が3人いた。男達が手にしてるのは、チケットの売上金。 「おい!逃げるぞ!」 私がいるのに気付いた男達は、凄い勢いで逃げていった。 ここで私が声を出したって、サーカスのテント内に声は届かない。 私が捕まえないと!! 私、足は速い方なのよ。絶対に捕まえるわ! 3人のうち1人は足が遅いので、すぐに追い付けた。 「待ちなさいっ!」 首根っこを掴んでおもいっきり引っ張ったら、10mくらい飛んでいった。 それを見てた残りの2人は、トラの檻を開けて逃げていった。 「嘘でしょ…」 虎は2人を追いかけるように、同じ方向に走っていった。 どうしよう!ハルさんがいないのに!! 蹴り飛ばすにしても、簡単には追い付けない!! ハルさんに知らせたいけど、そんな事をしてたら見失う! 私は1人で虎を追いかけた。 すぐに日が沈む。夜行性の動物だってハルさんが言ってた。可哀想だけど、人に危害を加える前に、何とかして殺さないと!! ・・・・ 「……」 「団長?どうしたんですか?」 「ピヨン、ちょっと出かける。すぐに戻る!」 「はっ!?次、団長の出番ですよ!!……参ったな…。」 ピヨンに任せて、俺はサーカスのテントを出た。 出番を前にしてサーカスを放置は出来ないが、今はそれどころじゃない。 ナタリアーナに何かが起きてる。 念のために守りの術をかけてはおいたけど…。 炊事場に向かう途中に、トラの檻がある。 「何故開いてるんだ…」 もしかして、ナタリアーナはトラを追いかけたのか!? くそっ…。 右手で耳をおさえると、守りの術をかけた相手の鼓動を聞くことが出来る。 ドクドクと鼓動は凄い速さだ。 目を閉じれば、鼓動(ナタリアーナ)の居場所が解る。 俺はナタリアーナのもとまで飛んだ。 ・・・・ 「皆さん!外に出ないで下さい!!何処か屋内に隠れてくださいっ!!」 トラは?トラはどこにいるの!? 皆に避難するように言うけれど、追いかけて来たトラは見当たらない。 「キャーー!」 「ウワァアーーっ!」 「獣がいるぞーー!」 その声を聞いて駆けつけると、人が噛みつかれる寸前だった。 「やめてっ!!」 ジャンプして蹴りをいれたけど、踏み込み位置からトラまでの距離が遠すぎた。トラはヨロヨロとはしたけど、ぶっ飛ぶまではいかなかった。 「早く逃げてっ!!」 噛みつかれそうになっていた人はその隙に逃げられたからよかったけど、これは最悪だわ…。 興奮したトラは、余計に狂暴になってしまった。 真正面にたたれてしまうと爪を立てられて、押さえつけられて噛みつかれる。 トラの側面に移動したいけど、道幅が狭すぎる。 足元には古くなった家の煉瓦が落ちていた。 これは使えるわ。 力が強くなってるなら、投げる力だって強くなってるはずだしね。 煉瓦を掴んで投げようとしたら、重みを感じた。 何で?掴んだ時は重さを感じなかったのに。 …力が落ちた。 って事は、ラマナが側にいる。 ウソでしょ…こんな時にっ…! 私を殺す為だけにいる悪魔殺し集団!! 何て邪魔な存在なの!!
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