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「あのね、トラ君。檻に入らないと駄目だよ。」
「……」
言葉が通じてるとは思わないけど、何度もトラに言ってみた。
う~ん…
もうすぐ出発なのに、服の裾をかじったまま離さないからどうしようも出来ないわ…。
「トラに乗ったらよくね?」
私と同じ年のカシュー君が言った。
軽い…。
「ハルさん、何とかしてくださいよ!」
「楽だろ。」
「そういう話ではなくてですね!」
「だったらメアも一緒に檻に入ればいいじゃん。」
…駄目だ。サーカスの人ってメンタル強すぎるわ。
「うわっ!?」
カシュー君が言った事を理解したみたいに、いきなりトラがズルズルと私を引っ張って檻の中に入った。
誰か助けてくれると思ったのに、無情にも鍵をかけられた。
ゴロゴロいって私から離れないトラ君。もう食べられないならいいや。
検問所を通る時は、もちろんトラも見せる。
「君っ!大丈夫かっ!?おい!この女の子を檻から出せ!!」
検問をしてるおじさんが慌てふためいている。そんなのも、サーカス団員は全く気にしてない。
「だーいじょーぶだって。見てみろよ。」
カシュー君が言うと、トラが私に物凄くすり寄ってきた。
「君…本当に大丈夫なのか?」
心配そうに話しかけてくるおじさん。そう、これが普通の反応なのよ。全然心配していない団員がおかしいのよ!
けど、そんな事は言えないわ。
「はい、私は猛獣使いなので、こんな風にスキンシップをするものなんです。」
いくらなんでもそんな訳ないって、さすがに解るよね?
「…そうか。」
納得されたわ…。
皆はサーカスがどうやって移動するかなんて知らないから当然だよね。
「さて、檻にシートをかぶせるぞ。」
ハルさんが当たり前のようにカシュー君に布の端を掴ませた。
「じゃなー!」
「えっ!?ちょっと待ってよっ!!」
カシュー君とハルさんが、私を檻に入れたままシートを被せてしまった。
あれ?シートをかぶせても、そんなに暗くならないんだ。これなら少しの間は我慢できるかも。
檻を乗せた荷馬車の乗り心地はよくない。乗り物よいはしない体質だから、それは別に問題ないの。ただ、暑い。
「トラ君、ちょっと熱いから離れようか。」
少しの間なら耐えられそうって思ったけど、ムリだわ。くっついてくるトラ君が熱くて死にそうよ。
ドーーッン
突然、何かが爆発したような音がした。
「うわっっ!?」
一体何があったの?
シーツの中にいるから外の様子が全く解らないけど、何故かトラ君が毛を逆立ててる。
少しすると檻を包んでたシーツが燃えだした。
「っウソでしょ!?誰か助けて!!」
このままじゃ焼け死んじゃう!!
「誰かっ!!」
……おかしい…誰の声もしない。
普通だったら皆が助けてくれるよね…。
「キャっ…」
何故か急にトラが覆い被さってきた。
その時シュっと音がして、檻の上半分がなくなった。
「……」
もしトラが覆い被さってくれてなかったら、私は真っ二つだったわ…。
グガァァルル
「……え?」
吠えるトラの視線の先にいたのは、真っ黒い瞳をしたラマナだった。
「ラマナ?」
「久しぶりだね。」
…メアに変装してるのに、私の事がわかるの?
「何故あの時俺を殺さなかったの。」
「……あの時?」
「ナタリアーナ、俺が君を殺してしまう。本当はお互い解ってたはずだ。婚約者で君を守ると約束した。けど、俺は勝てない。ローブを返せ。」
ナタリアーナ?
「ローブを返せって…あれはラマナのものなの?」
「そうだ、ナタリアーナに奪われた。」
このローブは魔女である証…
ラマナの物?
じゃあ、ラマナは魔女…悪魔…?
悪魔殺しなのに?
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