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告白
話がある。
大学時代からの旧友であるラインハルトに本部の建家内で切り出されたのは、彼が特殊空挺部隊を率いて、東方の紛争地域に向かうことが決定した日だった。
短く刈り込んだ金髪を無骨な掌で掻きながら私の後方に焦点をずらし、神妙な顔で、今晩家に来てくれと言う。
悪いことを隠すとき、この男は私と目を合わせようとしない。わずか19歳の頃からだ。15年も経つのに少しも変わらないのもどうかと思うのだが、そうしたものだと割り切れば腹も立たないし、その子供らしさが可愛気を醸し出そうともいうもので、実際6フィート3インチという体格にも関わらず、威圧感よりも人懐こさを感じさせるのだから大したものである。
腕に抱えた重いファイルを持ち直しながら、私は落ち着いた声で答えた。
「別に予定はないから構わないが、改まって言わなければならないようなことか」
ラインハルトは危険な任地に赴くのが当たり前の部隊に所属していて、命令ひとつでふらりと国外へ出てはふらりと帰って来る、そんな日々を何年も続けている。
今回の任務にしろ、私が勤める情報部内にも詳細はすでに伝達済みだが、べつに特殊なものではない。今日に限って家で話をする必要がどこにあるのか、さっぱり判らなかった。
しかしラインハルトは口元を引き締めて私の質問には答えず、ただ、頼むよと重ねて来た。
そこまで言われてはどうしようもない。
この男の隠し事といっては、せいぜいでどこぞの飲み屋か同僚に借金がありますとか、その程度だろう。
実は隠し子がいるなんて盛大に意表を突かれたら面白いのだが、残念ながらそういう甲斐性がないのは、長い付き合いである私が一番良く知っている。
結局承諾の意を伝え、今晩8時に彼の自宅アパートを訪問することを約束してから、私たちは別れた。
※ ※ ※
仕事を早めに終わらせてラインハルトの家を訪れると、彼も直前に帰って来たばかりで、制服の上着を脱いだ姿だった。
綺麗に筋肉の付いた大きな上背に、真っ白なワイシャツと黒ネクタイが良く似合う。1kg以上ある拳銃をショルダーから下げてもびくともしない身体だ。リビングのソファに腰を下ろす際、部屋の中を闊達に動きまわる広い背中が視界に入り、胸の奥に重い痛みが走ったが、すぐに紛らわせた。良くも悪くも大組織での生活は、己と折り合いを付ける術を身に付けるに充分だ。もちろん、親友の顔を保つことなどお手のものだった。
「スコッチとブランデーとどっちがいい」
本部での深刻さは一体どこに置いて来たのか、いつも通りの暢気な声が私に向いた。
「スコッチを頼む、明日も早いのでね」
「了解」
瓶と二人分のグラスを持参した彼が、同じく上着を脱いだ私の前に座った。シャツの上からでもその逞しさが判る前腕が、琥珀色の液体をなみなみと注いで行く。
身長はほぼ同じでも、私にはここまで立派な筋肉は備わらない。一般人よりは鍛え込んだ身体と自負しているけれど、ラインハルトを見るたびに、これこそが典型的な軍人の体格だなと感心してしまう。
「で、話とは何だ」
スコッチを貰いながら尋ねると、彼はいきなり自分のグラスを取り上げて一息に飲み干し、荒々しくテーブルに置いた。酒に強いとはいえ、こんな無造作な飲み方は学生の時以来で、つい窘めてしまった。
「おい、どうした。何があったか知らないが、ヤケになるなよ」
「……ヤケにもなるさ。ヤケにならなきゃ駄目なんだ」
理不尽な任務を押し付けられたのだろうか? 眉根を寄せた私をラインハルトはちらりと見やると、例の後ろめたそうな真剣さを覗かせてからソファに背を大きく預け、背もたれに左肘を寄せる。その左手で顎を支えながら、ためらいがちに口を切った。
「あのな、ヘルマン」
「ん」
「――俺な。お前のこと、好きなんだ」
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