さらば

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そんなお千代。 こんなハグレ者のオレにも、ずっと目をかけ、優しく声をかけてくれた。 オレもこんな歳だからか、うっかりシモの粗相をしてしまうこともある。でもそんな時、嫌な顔一つ見せずにお千代はオレのシモの世話もしてくれる。 そんなことを繰り返すうち、いつしかオレは、このかなり歳の離れたお千代のことを愛し始めて…。 いや、それは言わないでおこう。 これから来る別れが辛くなる。 だがふと考えることもある。 オレがこんな歳じゃなければ、不甲斐ない同世代の野郎どもに代わって、お千代を嫁に迎え、精一杯の愛情を捧げることができたはずなのに…。 実は恥ずかしながら、一度だけ“嫁に来ないか”的なことを口走ったことがある。 もちろんオレも慌てて誤魔化したし、「ありがとう。嬉しい…」とはにかんで呟いた彼女も、その言葉は本心からじゃないだろう。 そもそも、こんな歳の離れた“お迎え待ち”のしょぼくれた野郎なんて、お千代にとっては、ハナから対象外だろうしな。 だからいいんだ。 オレはそっとこのまま、黙ってお千代の前から消えるだけさ。 ああ、なんだか外の方が慌ただしくなってきたな。 もうオレも、もうそろそろ、だろう。 さらばお千代。 愛しの(ひと)よ。 ------------------ 「おーいたっくん!たっくんママがお迎えに来てくれたよ! はい、“さようなら”しよ? “先生さようなら。みなさんさようなら”」 「ほらー、たっくん恥ずかしがってないで、千代先生に“さようなら”して? もうたっくんったら! 先生、いつもいつもすみませんね。うちのたっくん、お迎えの時間になると急に千代先生に甘えちゃって」 おしまい
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