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そんなお千代。
こんなハグレ者のオレにも、ずっと目をかけ、優しく声をかけてくれた。
オレもこんな歳だからか、うっかりシモの粗相をしてしまうこともある。でもそんな時、嫌な顔一つ見せずにお千代はオレのシモの世話もしてくれる。
そんなことを繰り返すうち、いつしかオレは、このかなり歳の離れたお千代のことを愛し始めて…。
いや、それは言わないでおこう。
これから来る別れが辛くなる。
だがふと考えることもある。
オレがこんな歳じゃなければ、不甲斐ない同世代の野郎どもに代わって、お千代を嫁に迎え、精一杯の愛情を捧げることができたはずなのに…。
実は恥ずかしながら、一度だけ“嫁に来ないか”的なことを口走ったことがある。
もちろんオレも慌てて誤魔化したし、「ありがとう。嬉しい…」とはにかんで呟いた彼女も、その言葉は本心からじゃないだろう。
そもそも、こんな歳の離れた“お迎え待ち”のしょぼくれた野郎なんて、お千代にとっては、ハナから対象外だろうしな。
だからいいんだ。
オレはそっとこのまま、黙ってお千代の前から消えるだけさ。
ああ、なんだか外の方が慌ただしくなってきたな。
もうオレも、もうそろそろ、だろう。
さらばお千代。
愛しの女よ。
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「おーいたっくん!たっくんママがお迎えに来てくれたよ!
はい、“さようなら”しよ?
“先生さようなら。みなさんさようなら”」
「ほらー、たっくん恥ずかしがってないで、千代先生に“さようなら”して?
もうたっくんったら!
先生、いつもいつもすみませんね。うちのたっくん、お迎えの時間になると急に千代先生に甘えちゃって」
おしまい
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