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「まあ、じゃあ、この辺にしとこうか。時間とらせて悪かったな。ありがとう、ミナオカ。じゃあな」
「……ああ。じゃあ」
俺の側から切り出す必要もなく、心配していたよりもずっとあっさりと、<ソネヤ>との通話は終わった。
特にこちらの近況を尋ねられるでもなく、向こうも話すでもなく。雑談の中でうっかりボロが出る、というような展開にもならなかった。
本人が言ったとおり、じゃあ久しぶりに会おうよとかでもなかったし、「また今度」とすら、言わなかった。
……本当に、「ちょっとかけてみただけ」だったのかもしれない。
いや、そう思わせておいて、そのうちにまたかけてくるつもりなのかもしれないが……
まあ、どっちでもいいことだ。
<ソネヤ>がいったいどんな奴なのか、今の通話では結局よくわからなかったが、とりあえずは向こうも、あれ? 何だか噛み合わないぞ? とは、思わなかっただろう。
なんだか、やたら満足してくれたようだったし。
迷ったが、思い切って通話したのは、良い選択だったんじゃないだろうか。
通話が途切れると、マンションの一室は、急にしんと静まり返ったような気がする。
時間をとらせて悪かった、と、<ソネヤ>は言っていた。
確かに、もう、早いところ部屋を出なければならない時間ではあった。
そして俺は、ふうと一息ついてから、手袋をしたままの手で<ミナオカ>のスマホをそっとテーブルに置くと、血だらけで床に伏せたまま動かない部屋の主に一瞥をくれてから、部屋をそっと出ることにした。
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