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「……もしもし? ミナオカ?」
「……そうだけど」
出てしまった。
もう、後には退けない。
「おおー、ミナオカ、ひっさしぶりだなー。って、オレのこと、覚えてる?」
いやに馴れ馴れしい男の声が、受話器からまくし立てられる。
聞き覚え……は、ない。やっぱり、ない。ほんの少し期待していたのだが、当てが外れた。
「……ソネヤ、だよな?」
わからない、とはちょっと言えないので、少々ずるい返し方をする。
「そうそう! ってミナオカ、オレのこと覚えててくれたんだ。嬉しーなー」
覚えていて嬉しい?
ということは、やっぱり、大した間柄じゃなかったってことか。
少し安心した。しかし、気は抜けない。大した間柄じゃなかった、全然どんな人間か像を結べない相手と、違和感のないようにトークを続けなければならなくなっているのだから。
「クラスが一緒だったの一回だけだし、卒業してから会ってないしさー、正直、わかんないんじゃないかと思ったよ」
クラスメイト。
新しい情報が手に入った。いや、耳に入った。
しかし、いつのだろう?
「忘れていても仕方がない」という認識で少し助かったが、まだ、一向に見当がつかない。最近の話ではなさそうというだけで、大して絞れたとは言えない。少なくとも、こちらから会話を投げかけられる状態ではない。……かと言って、いったん知っている体で話し始めてしまった以上、今からやっぱり覚えていない、とは言いにくい。
うまく合わせられたと思ったが、こうなってみると、むしろ失敗だったか。
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