別れ

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「ねぇ、まだ来ないの?」 幼さと儚さを見繕って取ってつけたように少女は問う。 「さぁ。それは僕の管轄外なのでね」 アンティーク調の椅子に腰かけていた背の少しばかり高い青年。 彼は血の様な赤い瞳を、分厚い魔導書に向けたまま言い放った。 彼女は無言になってページを黙々と捲る本の虫。 軽々とそれを取り上げて、さも仕返しの如く返した。 「聞いてるでしょ、まだ来ないかって。この私が言ってるのよ!?」 サファイアの様な蒼い瞳と純白のシルクのような髪を揺らして。 椅子の彼に険しい表情で聞き直した、だが本の虫な状態に言の葉は届かなかった。 純白の悪魔は、ハッとする。 いつの間にか本が、彼の手元に戻っていたのである。 「あなた本当に腹立つわ、この私がせっかく聞いてあげているのに!!」 目深く身にまとった黒衣を、本のページに引っかけぬように気にしながら。 再び無言で読書を再開し、架空の世界に入り浸る。 「ページを捲る度に書物は新鮮な世界へ引き込んでくれる」 「あっ、そう。本読む以外は何も、しないのね?」 もはや意思の疎通など意味が無い、時間の無駄なだけである。 「ま、いいけど。どちらにせよこちら側には来る予定だしね、1人でも居たほうが面白いでしょう?」 不意にパタリと閉じる音、血の様な赤い目は本に注がれたまま。 「要らない、そんなモノは不要だから」 本の表紙を撫でるように触れている酷魔を、相手にするだけ無意味だったと。 ようやく認識して溜め息を一つ、そして立ち上がる鮮血の瞳を持つ化け物と青い狂気の舞姫は不可視の空間を後にした。 その際、誰かが低い声でつぶやいた。 「早く来てくれ、この世界はキミが来なければ遠くない未来で終わりを迎えるだろう」 それが目線をやった先。 外には闇の中で遠く果てなき続く墓標が【彼】を待ちわびていたように思えた。
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