あなたが一番怒った記憶を思い出して下さい

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 姫はお変わりなかったな、と日高は心の中でつぶやく。姿形は変わっても、眼差しは昔のままだった。  一目見て、まさかと思った。  でも「前世は姫でしたか?」と聞く訳にもいかない。  しかし、奇跡は起こった。  血圧測定の後、目が合って5秒経った。  彼女の記憶が、見えた。  彼女が思い浮かべていたのは――前世で自分が死ぬ場面だった。  息が止まりそうになった。  覚えていた、彼女も。  自分のことを。  だから思わず「覚えていてくれて良かった」と言ってしまった。  でも、きっと会うことはないだろう。  連絡先も聞けば良かった、と後悔した。しかし60を過ぎた身である。再会してどうするというのだ。恋人、もしかしたら夫だっているかもしれない。そう思うと住所を調べることも(はばか)られた。  平和に穏やかに過ごしておられればそれで良い。  自分のことを思い出してもらえただけでも僥倖(ぎょうこう)だ。  何度も自分に言い聞かせないと迷ってしまう。  魔法が発動したのはあの一度きり。であれば、その機会を生かすべきなのか。  いや、しかし。  考えながらも業務はこなす。午後はさらに忙しくなってきた。それでも丁寧な対応を心がける。 「次の方どうぞー」
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