あなたが一番怒った記憶を思い出して下さい

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 問診票を確認……しようとして、目が釘付けになった。 「こんにちは!」  声に顔を上げると――なんということだろう。  待ち望んでいた彼女だ。笑顔で目の前に座っている。  姫、と呼びかけたいところをグッとこらえた。 「お久しぶりです。今日は顔色がいいですね」  服もメイクも明るくなって、雰囲気さえ違う。まるで前世のお姿のように堂々としていて……綺麗になられた。  結婚が決まったとか、職を変えたとかだろうか。  理由を想像していると彼女は微笑んだ。 「はい、あなたに会うのを楽しみにしていましたから」  おっと。  タブレットを操作する手が止まる。  こちらの動揺には気づかず、彼女はきょろきょろと辺りを見回すと、小声で日高につぶやいた。 「あの、お仕事終わりまで待っててもいいです?  お話したいことが、たっくさんあるんです」    予想外の出来事にどうしたらいいかわからない。  日高は下がってもいない眼鏡を指で押し上げた。 「……だいぶお待たせしますよ?」 「いいんです」  にっこり笑った顔。こちらの血圧が上がりそうだ。 「さて、今日の血圧はどうでしょうかね」  平静を装って、日高は優しく血圧計のカフを彼女の腕に巻いた。
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