あなたが一番怒った記憶を思い出して下さい

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 魔王の城、大広間。そこには絶望が満ちていた。  最後の敵は血を吐きながら哄笑(こうしょう)する。 「最初の威勢はどうした! もう立っているのはお前だけではないか!」 「……お前こそ、あと一突きで倒れよう」  私はつぶやくように言う。  9人の仲間は既に倒れた。魔王と対峙(たいじ)するのは私だけ。    激しい戦いで、魔王に重傷は負わせたものの決め手に欠ける。心臓めがけて雷を落とし、首をはねても復活する。  あと一回、どこかに致命傷を負わせれば倒せるはず。その場所がどうしてもわからない。  魔王は魔法、私は剣の一撃を喰らわせようとじりじりと距離を詰める。  疲労と傷でよろめく私を、魔王がざまあないと言わんばかりに嘲笑(あざわら)う。  そこに、声が響いた。 「魔王、お前はここで終わりだ」  声変わり前の高い声。魔王も私も、瞬時に声の主を見た。 「お、お前の弱点は見抜いた……!」  広間の隅に倒れている少年。息も絶え絶えで声を発するのもつらそうなのに、その眼差しは強かった。  魔王は鼻を鳴らす。 「ハッ、貧弱な魔法使いが何を言う!」  実際、少年――ティムは弱かった。戦いの序盤で魔王の攻撃の余波を受けただけで立ち上がれなくなった。ここまでの道中も、彼を守りながら戦ってきた。   しかしそれには意味がある。  彼は、相手を5秒以上見つめたとき、相手の考えていることがわかる、という特殊魔法を持っていた。  おそらく最初の台詞は嘘だ。しかし注意がそれた魔王は彼と見つめあった。そして弱点を脳裏に浮かべた。  力を振り絞り、ティムは叫んだ。 「姫、背中の中心を狙ってください!」  見抜いた! 「なっ……余計なことを!」  魔王が片手でティムに黒炎(こくえん)を放つ。その隙に私は魔王の背後に周り、広い背中を駆け上がる。 「――聖なる光よ、今一度我が剣に」  最後の魔力。ここに全てをかける!  振りかぶった剣が白い光を放つ。 「うわぁあああああ!!!」  私は剣を突き刺した。
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