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断末魔の叫びが上がった後も、私は剣を手に動けずにいた。
魔王は硬直し、やがて全身が灰になり、消えた。私は大広間に降り立つ。
静まり返った城。戦いの音がさざ波のように引くと倒れた仲間たちのうめき声が聞こえてきた。
私は獣使いの青年をまず助けて、鳥を飛ばし、外に助けを求めてもらった。
回復薬で賢者を癒し、彼の助けで次々と仲間が起き上がる。私は優先順位をつけて効率よく動いた。
本当は誰よりも早くティムの元に駆け寄りたかった。だけど、皆を導いてきた立場が邪魔をする。誰よりも冷静に振る舞えと。
最後にティムの元に向かう。彼の全身は黒焦げていた。回復魔法でも助からない、死の匂い。
激しい後悔に襲われた。
最後、黒炎から守ったらよかったんだろうか。いや、もう私に余力はなかった。2人ともやられるのが落ちだ。命と引替えの好機を無駄にできなかった。冷静な頭はそう判断する。
だけど。
これまでのことを思い出す。
彼は私に尽くしてくれた。
冗談を言うと目を細めて笑ってくれた。
私をかばって矢を受けても「大丈夫ですよ」と気丈に振る舞い、折れそうになる心を支えてくれた。
高原から空を見上げる横顔が大人びていて、胸がときめいたあの日のこと。
ずっと当たり前にそばにいて、いつしか彼のことを愛しく想うようになった。
私は甘かった。どこかで皆無事に生き残る、そうしたらティムとまた旅に出たいと考えていた。そんなことができる保証、どこにもなかったのに。
拳をギュッときつく握る。彼の頬に涙が落ちる。
私に、もっと、力があれば!
その時。
すっかり黒くなったティムの指が、ピクリと動いた。
ああ、と声が漏れる。
もう、息を引き取ってくれたらよかった。苦しまずに済んだのに。
「姫、泣かないで下さい。最期にお役に立ててよかった……」
少年はにこりと笑い――そのまま動かなくなった。痛々しい体に心底幸せそうな笑みを残して、彼は逝った。
私はまだ熱の残る体を抱きしめて号泣した。彼の名前を何度も呼ぶ。
魔王に私たちは勝利した。
愛しい人の命と引き換えに。
彼を殺した魔王への憎しみ。何より己の不甲斐なさ、情けなさ。
記憶を引っ張り出したものの、私は後悔していた。思い出しても彼を救えなかった事実は変わらない。彼がいない前世も今世も呪いのようだ。
ピピッ。
測定完了。
「さて、どうですかね……」
現実に引き戻され、私は目を開ける。
そして日高さんとしばらく見つめ合った。
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