あなたが一番怒った記憶を思い出して下さい

8/12
前へ
/12ページ
次へ
 目を見開いた日高さんはまばたきをする。すぐに落ち着いた微笑みを浮かべる。 「測定、終わりましたよ。では、発表です」  脳内でドラムロールが流れる。  ドゥルルルルルルル……ジャン! 「……残念!上85、下49でした!」 「ああ……」  思わず声が漏れる。  大して変わってない。  本日3度目のがっかり。 「なんか、怒りのパワーが足りなかったみたいで、すみません」  まだ頭が混乱している。泣きそうなのをごまかして「へへっ」と笑う。 「いえいえ」と日高さんは言った後、いたずらっぽい表情をぐっ、と近づけた。  私にしか聞こえない音量でささやく。   「――私のことを覚えていてもらえて良かった。またお会いできたらいいですね、姫」  そしてウィンク。 「今回は残念でしたね。食事や運動に気をつけて、ぜひまたお近くの献血ルームにいらしてくださいね。……はい、お待たせしました、次の方どうぞー」  日高さんの流れるようなトークが、私の頭の中を通り過ぎていく。  私はバスを降りた。  夢うつつの私は機械的に車に乗り込み、なんとなく家路を進み、赤信号で止まったところでもう一度今の出来事を思い返した。 …………………………えっ?
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加