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「なにやってんですか」
私は男に声をかけた。男の前にいたミニスカートの女の子が立ち読みから我に返り、自分のことかと振り返る。
ヤンキー風の男は「は? なんもしてねぇし」とケータイを隠そうとして手が滑り、床に落とした。
私と、男と、彼女の視線が画面に釘付けになる。
そこには白く伸びた脚と、ミニスカートの中の下着が映っていた。
「あ……」と小さく声を上げた女の子が真っ青になる。そう、盗撮だ。
「チッ」と舌打ちしてケータイを拾おうとした男の手から一瞬早くそれを蹴り飛ばす。本棚の間から、通路へ。
「クソが!」
怒りの矛先は私に向く。私は逆襲に驚くフリをして後ずさり、広い通路に出た。顔面に男の拳が迫る。
だが拳は空を切った。次の瞬間、男を背後から全体重をかけ床に落とす。
「ぐっ……!」
「警備員を呼んでください!」
私は目があった店員に叫んだ。男の抵抗を完全に封じる。
走ってきた警備員に男を引渡し、女の子に感謝される。なんの騒ぎだとギャラリーが集まってくる。
このあとは警備室、そして警察署。いつもの流れを想像していると小柄な老婆から肩をポンと叩かれた。
「あんた偉いねぇ。私一部始終見てたけど相手の男が
怖くて声かけられなくてさ、あたしも証言するよ」
これ幸いとばかりに私は後を彼女に任せて消えることにした。別に感謝されたくてやったわけではない。
ショッピングモールの外に出て、軽くため息をつく。しばらくあの本屋行けないな。
小さい頃からなにかあると人を助けずにはいられない。警察からの感謝状も何度ももらった。
たまに「警察を呼んで任せればいいじゃない。あなたが対処しなくても」「いくら武道ができるからって危なくない?」と言われる。
だけど、本当は相手のためじゃない。大切な人を守れなかった自分のためだ。
もっと力があれば。
そう思って、その力がまだあるか確かめたくて、その先にあの人がいるような気がして人助けをしているだけだ。
そんなことをしても、もう二度とあの人が生き返ることはないのに。
虚しいな。
そう思った時。
「献血にご協力お願いしまーす!」
大きな声が耳に飛び込んできた。駐車場の一角に大型バスが停まっている。
「献血か、長らくやってないな」とぼんやり見ていると、視界の隅にあたりを見渡す警備員がうつった。私を探しているんだろう。
私は献血バスの中にするりと入りこんだ。
スタッフに迎えられ、問診票に記入する。
車内は外観より広かった。簡易ベッドが3人分。献血中のおじさんに看護師さんが「いつもありがとうございますー珍しい血液型なんで助かります!」なんて言ってる。
常連らしいおじさんは嬉しそう。
身を隠すために来たのに、その様子を見て私は俄然やる気になった。体の丈夫さには自信がある。
私の血で誰か助かればいいな、なんてその時は軽く考えていた。
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