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第六話 真打
「ファントム」
正面扉が蹴破られると同時に聞こえてきた男の声。
先程まで死にそうな顔色だった大臣達の顔に安堵が浮かび、現れた男から続いた言葉に別の意味で蒼白になる。
「国家レベルの機密事項とされる特殊兵団の名称です」
「……来たか」
五人は白衣姿の男、煤山を見据えると臨戦態勢をとる。
「今度はなんだ!?」
次から次へと現れる見知らぬ存在に、議員達は再びざわめき出す。
そんな議員達には目もくれず、煤山は五人を値踏みするように見つめる。
「ふむふむ。年格好も確かにオリジナルメンバーと相違なさそうですね。ですがまずは本物かどうか見極めさせていただきます」
そう呟いた煤山が右手を上げると、複数の小さな影が疾風の如く駆け抜け五人に迫る。
(速い……!)
影を見てとった五人の瞳が発光する。
目にも止まらぬ早さで繰り出される殴打に難なく対応し、突撃してきた影と見紛う子供達を弾き飛ばす。
一定の距離まで子供達が後退した所で、場違いな一人分の拍手が起こった。
「素晴らしい!! 現時点における最新戦力、第八世代を相手に無傷ですか!! やはりあなた方は第一世代のオリジナルメンバー!! ぜひその素体、研究したいですね」
笑顔で拍手する煤山の言葉に、五人の表情が歪む。
「研究か……。何年経ってもあんた達のその狂った思考は変わらないんだな」
「しかも聞いたか? 今の子供ら、第八世代だとよ」
「まさか本当にあんなこと続けていたなんてね」
荒隆、樹端、永那の忌々しいと言いたげな言葉に煤山は笑みを深める。
「改良に改良を重ねて継続中です。力こそあなた方オリジナルに劣りますが、駒としては優秀ですよ。何せ心を持ちませんから」
「!?」
さすがにそこまでだと思っていなかった五人は驚愕で目をみはった。
「素敵でしょう?」
「腐ってやがる……」
なおも楽しそうに告げる煤山に、樹端が呻くように吐き捨てる。
「腐ってる? むしろ輝いていると言っていただきたい。これだけの研究空間、研究材料に囲まれるのは科学者として至福以外の何物でもありませんよ」
「お前の主観に興味はない」
恍惚とした煤山に荒隆は冷ややかな視線を向ける。
「それはお互い様です。実験動物」
「てめえ!!」
煤山の嫌味たらしく笑いながらの見下した発言に、樹端がキレた。
「待て!! 樹端!!」
とっさに双也が静止をかける。
樹端が伸ばした手の先で煤山を庇うように子供達が立ち塞がっていた。
「ちっ!」
「攻撃なさらないのですか? 私は構いませんよ。盾なら十二分にありますから」
舌打ちと共に手を下ろす樹端に、下卑た笑いを浮かべて煤山が挑発する。
「そいつらを傷付けるのは本意じゃないからな」
苦虫を噛み潰したような顔の樹端がそっぽを向く。
「いくつか聞きたいことがある」
「私に答えられる範囲であればなんなりと」
冷静に問い掛けてくる荒隆に、礼を尽くさんとばかりに丁寧に煤山が答える。
「その子達を含め、現在お前達の手の内にいる被害者は何人だ?」
「被害者ですか? ……ああ、被験体のことですね。詳しい個体数は分かりかねますが、四十はいたかと」
いちいち癇に障る物言いの煤山にピクリと片眉を上げながら荒隆は質問を続ける。
「……これまでに実験の犠牲になった人数は把握しているのか?」
「はて? 廃棄になった失敗作の数など必要ですか?」
視線を鋭くした五人の周囲の空気がぴりつく。
「被害者だの、被験体だの、一体何の話をしている!!」
置いてけぼりを食らっていた議員の一人が耐えかねて声を上げる。
「黙れ。機密に触れることすら出来ない数増やしが! 私の楽しみの邪魔をしないでいただきたい」
笑顔を消した煤山が憤怒の念を込めて議員を見る。
「数増やし、だと!?」
「あまりお喋りが過ぎると永遠に口を閉ざしていただくことになりますが、よろしいですか?」
「……っ」
荒隆達に向けるのとは違う、寒気のする笑顔で議員を黙らせると煤山は再び笑顔で荒隆に向き直った。
「雑魚はおいておいて、お話の続きとしましょうか。失敗作のことを気にしていたようですが、数がそんなに大事ですか?」
「大事だろうが!! お前らが物のように扱っているのは紛れもない命だぞ!! それを!!」
繰り返される煤山の冷酷な発言に、樹端が怒りに任せて吠える。
その様子に楽しくて堪らないと煤山が笑い始めた。
「くつくつ。命ですか。確かに命ですね。そういえば十数年前の爆発で失われたのも命でしたねぇ。確かあの時でしたね、あなた方が行方不明になったのは」
煤山がニヤリと笑い言い放った言葉にガタンッという音が重なった。
「美早!!」
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