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第12話:鬼と酔っ払い
「虎鉄、さっきのビールあったやろ?」
「ありますけど、喉乾いたんでっか?」
「ちゃう、ちゃう。お前が飲むんや」
「は?」
「ええから、一気に全部空けてまえ!」
「そ、そんなんしたら、酔っ払って……」
「かまへん!」
「分かりました、兄貴が言うんやったら……」
虎鉄は、ゆっくりビールを飲み始めた。
「時間がない、一気にいったれ!」
「へ、へい……。んぐ、んぐ、んぐ……」
そこからビール5本を、一気飲みした。
度数からして、日本酒1升ちゅーとこか?
虎鉄の目が座りだす。
「兄貴~~。なんか、ええ気分だっせぇ~。ヒック」
「それでええ。次は、目の前の――」
「何時まで待たせる気だ、人間!」
突然、緑の鬼が襲ってきた。
虎鉄が、歌いながらフラフラと歩き出す。
あの曲は、たしか……
「京橋は、ええとこだっせ~♪」
「死ね!!!!」
鬼がナイフで突きを放った。
しかし、ひらりと流され当たらない。
「グランシャト~は、レジャービル~♪」
「何! 避けただと!? これは、どうだ!」
更に何度も刃物を振り回す。
しかし、のらりくらりと虎鉄にかわされ、焦る鬼。
あいつ、あんなに目良かったか?
「グランシャトーへ、いらっしゃい♪ ヒック」
「ば、ばかな……」
「おんどれ、遊んどんのかい? いっこも当たらんぞぉ。こっちからも行くぞ、ヒック」
今度は虎鉄が殴りかかる。
鬼は同時にナイフを出すが、軽くかわされ吹き飛んだ。
「ぐはっ……」
「お前、ヘタレやんけ。何、寝そべっとんねん? ヒック」
「虎鉄、ナイフ気ぃつけよ! 下手に近づくな!」
「こしゃくな、人間め……!」
起き上がった鬼が、猛ダッシュで迫った。
8の字を描くように、縦横無尽に連打する。
しかしナイフは、一向に当たらない。
逆に、虎鉄は小石を当てるように拳を放った。
攻撃は、面白いようによく当たる。
酔っ払い特有のくねくねした動き。
パンチの軌道が相手には、読めんのやろう。
強打ではないが、不意に現れる拳は鬼に脅威を与えた。
「おらおらおらおら。反撃してみんかい、ヒック」
「うわっ!」
勢いに押され、後ずさって石につまずく。
思わず刃物まで手放した。
「今や虎鉄! いってまえーーー!!!!」
すかさず虎鉄が覆いかぶさり、相手の耳にかじりつく。
「痛ててててて! 止めてくれ、うわぁぁ!」
酔った者は、限度を知らん。
そのまま耳を食いちぎってもうた。
これは、ちょっとグロいな……。
「降参するから、もう止めてぇー!」
「虎鉄、もうええ! 離れろ!」
「お前、兄貴の服着てわしを騙そうとしとるんか? ワレもいてまうぞ、ヒック」
あかん、もうわしの姿まで見失っとる。
「はい、虎鉄。オツカレちゃん!」
俺は虎鉄をぶん殴って気絶させた。
酔ったこいつを止めるには、これしかない。
「はっはっは! 面白い人間だ! 無様な戦いではあったが、なかなか楽しい余興だったぞ!」
親分の黒鬼が、上機嫌で高笑いした。
しかし、やられた本人は落ち込んどる。
耳もがれたし、同情するわ。
「くそ……、人間ごときにこの耳を……。生えてくるまで、何日かかると思っているんだ……」
「生えてくんのかーい!」
「茶番は終わりだ、人間。オーガの恐ろしさを教えてやろう!」
「上等じゃ、ワレ! ウズウズしとったことろや!」
「おい、お前。胸が光っているのは、どうしてだ?」
「ワシの胸がどないし――」
ふと見ると、服の下で何かが光っていた。
それは、入れ墨の一部から放たれてるようや。
ちゅーか、虎鉄の背中も光っとるのだが……。
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――クロス作品――
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