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第13話「ストーカー」
無事、菜々子は涼真、颯、太一と同じ高校に通うことができた。
制服はブレザーだ。チェックのスカートで、地元でも可愛いと評判だった。
暑くなる日中は、菜々子はブレザーを脱ぎ、ベストを着用して過ごしていた。
高校に入り、さらに大きくなった胸が制服を押し上げ、男子生徒にチラ見されることが増えていった。
学校が半日で終わった日、久々に涼真の家に集まり、それぞれの学校生活の話で盛り上がる。
涼真がドヤ顔で言った。
「俺、入学して1週間で3人にコクられた」
それに太一がふっと笑う。
「俺は5人」
「俺は7人」
「勝った!私は10人!」
颯の7人を上回り、ドヤ顔の菜々子。
「10人!?二桁かよ!?」
「まぁ、男の方が軽い気持ちで声かけてくるやつ多いだろうし。菜々子が有利だろ」
「つか、太一のは男も入ってんだろ」
「この場合いいだろ」
「どの場合?」
「っで、菜々子は誰かOKしたのかよ?」
「ううん。なんかカッコいい人いなかったし、付き合うとか興味ないっていうか」
「ふーん」
涼真が中途半端な返事をする。
「あんたたちと遊んでる方が楽しいし」
「だよな!」
菜々子が少し考えた顔で颯を見た。
「颯なら、レベル高い女の子から、いくらでも声かけられてそうなのに」
「だって、誰かと付き合ったりしたら、菜々子との時間減っちゃうし」
「私ばっかで飽きない?」
「全然」
颯はナチュラルに菜々子の体を抱き寄せると、膝の上にのせ、後ろからぎゅーっと抱き締めた。
「菜々子の顔も体も、アソコの具合も大好きだからね。いろんなプレイさせてくれるし、飽きる暇ないよ」
「ぇへへ。そう言ってくれるとうれしー」
「今んとこ、うちの学校には、菜々子を超える顔と体のやつはいなかったな」
「確かに。お前、やっぱ最高の女だわ」
言い終わらないうちに、三本の腕が菜々子に伸びてくる。
そしていつものように四人で楽しんだ。
あれから、涼真たちは部活が忙しくなり、入学前より会う時間は減ってしまっていた。
今日家帰っても一人だなーっと考えながら、菜々子が自転車置き場の横を通り過ぎようとしたとき、大柄な男子生徒が鞄をひっくり返していた。
大柄といっても、太一の筋肉質な感じとは違い、脂肪が大半を占めている感じだった。
鞄の中身が散乱しかけているが、焦っているのか気にもとめず、何かを探している。
一心不乱という言葉がぴったりだった。
その光景がおもしろいのか、女子三人組がクスクス笑いながら、通りすぎていった。
ここで探す確率で一番高いのは自転車の鍵。
菜々子は足元に落ちているのを見つけると、拾い上げる。
菜々子は何も考えず、いつものように、愛想のいい声で、話しかけた。
「あのー、もしかして、これ探してますか?」
男子生徒は固まったようにその鍵を見つめた。
「あった!」
膝をついたままがばっと顔を上げた。
「あああああありがとう!!!」
「ど、どういたしまして」
小さな目で、低い鼻。ちゃんと剃れないのか、青髭になっているような口元。出っ歯。おそらくおしゃれではない、変なマッシュっぽい髪型で、芸人のフットボールアワーの岩尾に似ていた。
そういえば、クラスの女子が岩尾に似たやつが、校内トップでブサイクと言っていたのを思い出した。
菜々子は用が済んだため、立ち去ろうとすると、手首をがしっと掴まれた。
思いの外、強い力でびっくりする。
手汗でベタベタだ。
「あの、名前っ!」
「え、あ、私のですか?……ひ、広瀬です……」
「広瀬、何!?」
「な、ななこ……」
「菜々子ちゃん、ありがとう!俺、3年の岩尾 伝太(いわお でんた)!今度お礼するぅ!!」
「お礼とか……大丈夫です……」
岩尾は荷物をかき集め、鞄に詰めると、自転車を猛スピードで飛ばし、去っていった。
菜々子は手首に残った生暖かい感触を忘れるように、スマホを見た。
「あ、颯からLINE来てる。クレープ?食べに行くー」
翌日、教室でクラスの子としゃべっていたところに、黒い影がぬっと現れ、菜々子は仰ぎ見た。
「菜々子ちゃん!これ、お礼!」
岩尾だった。
なぜか息を切らし、ふー、ふーと大きく呼吸をさせながら、体から湯気が出ている。
その凄まじさに、菜々子は固まってしまう。
「…………」
菜々子は縦長の綺麗にラッピングされた箱を渡された。
硬いので、紙ではなく、桐の箱のようだ。
「開けてみて!」
菜々子は戸惑いながらも、圧がすごいので、箱を開けた。
中はブラックパールのネックレスだった。
「…………」
女子高生へのプレゼントが真珠のネックレスって……。しかも黒……。
颯はもちろん、太一や涼真ですら、こんなセンスのないプレゼントは選ばないだろう。
「あ、えっと……これって、本物ですよね?かなり高額なんじゃ……?」
「30万円だよ!」
「え……」
「それで、今度、駅前のホテルの展望レストランに行かない?」
「…………」
駅前のホテルは結婚式も請け負うお高いレストランだ。
そりゃ、高くておしゃれな料理食べてみたいけど、菜々子は涼真たちとマックに行ったりするのも嫌いじゃない。
なにより、そのままホテルの部屋に連れ込まれそうだ。
「……あの、ごめんなさい。こんな高額なプレゼント受け取れないです。レストランも……ちょっと……」
「もちろん!俺がお金払うよ!」
「あの、でも……」
「心配しないで!」
「菜々子!数学の教科書貸してくれ!」
涼真の声が突然、教室の入り口から聞こえてきた。
そのまま、ずかずかと中に入ってくる。
「涼真」
菜々子は目で、困っていることを訴えた。
涼真はすぐにわかったのか、冷たい視線を岩尾に送った。
「あ?菜々子になんか用?」
岩尾は少しビビったのか、言葉を詰まらせた。
「菜々子、数学の教科書、早く」
「う、うんっ!」
菜々子は屈んで、机の中を覗いた。
とりあえず机におかれたプレゼントの箱を、涼真は突っ立ったままの岩尾に突き返した。
「まだなんか用?早く教室戻れよ」
今度は睨んだ。
切れ長の目で、整った顔立ちの涼真に睨まれると、男でも怯んでしまうことが多い。
岩尾は何か言いたそうにごにょごにょ口を動かしながら、箱を持って、教室を出ていった。
「涼真、あった。はい」
「サンキュー。何、あいつ」
「なんか昨日、鍵拾ってあげたら、お返しに黒真珠のネックレスくれたの。おばあちゃんじゃないんだから」
あははっと涼真は爆笑する。
涼真は自分の教室へ戻るとき、振り返った。
「菜々子、今日、俺ん家来いよ」
「うん。行く」
涼真が去ると、一緒にしゃべっていたユミがささやく。
「桜井くん、カッコいいね」
「はは、こういうとき、先輩でも気持ちよくつっかかってくれるからね」
その日、菜々子は涼真の家に行き、一週間ぶりにヤった。
「…………」
菜々子は視線を感じ、ゆっくりと顔をあげた。
う……岩尾だ……。3階の廊下の窓から、グラウンドにいる自分を見ている。
「菜々子、どうしたの?」
体育の授業のため、一緒にグラウンドへ向かおうとしていたユミが声をかけた。
「なんか、こっち見てる」
「うわ、ホントだ。キモ」
「あいつ、いきなり発狂したり、モノ破壊したり、ヤバいやつらしいよ」
同じく隣にいたサキも気味悪そうな顔した。
「先生に、モミアゲが耳についてるとか指摘されて、叫びだしたり、猫とか見つけると、石投げたり」
「うわ、ヤバいやつじゃん」
「えー、そんなやつだと知らなくて、鍵拾ってあげちゃったよ」
「あーぁ、やっちゃった」
「あれ完全に菜々子のこと気に入っちゃったねー。あんなのだから、他人に優しくされたことないだろうし、菜々子にゾッコンだよ」
「やだー!」
それからも、学校にいる間、何度も視線を感じるなと思い、振り返ると、岩尾だったということが多々あった。
その日、図書委員の仕事があった菜々子は、ちょうど部活終わりの太一と颯に会った。
「菜々子、今帰り?一緒に帰ろー」
「うん」
残念ながら、涼真はいないが、久々に会えた幼なじみで話が弾む。
「もうすぐ、プール始まるねー」
「俺、菜々子と同じ時間なんだよ」
「マジか!?水着見放題じゃん」
「いいだろ」
菜々子の横をぬっと、黒い影が通り過ぎて行った。
「菜々子ちゃん、ばいばい」
「あはは……」
菜々子は中途半端な顔で返事をする。
自転車に乗っていた岩尾だった。
そのまま、すーっと去っていく。
「誰、あいつ」
「3年の岩尾ってやつ」
「有名?」
「キモくてな」
「なんで菜々子に挨拶なんかしてくんだよ」
「うーん……実は……なんか気に入られてるみたいで……」
「愛想笑いなんかしてるからだろ。無視でいいんだよ!無視で!」
「う、うん」
颯が困った顔で笑った。
「菜々子は優しいからなー。冷たい態度の取り方わかんないでしょ」
「おはよとか言われると反射的に、返しちゃわない?」
「いや?」
颯にやわらかい表情のまま言われる。
「とにかく、今度話しかけられても、返事しちゃダメだよ。黙って、苦笑いして、離れる!」
「う、うん。やってみる」
「何、これ……」
菜々子が教室に置きっぱなしにしておいた鞄を開けると、封筒が入っていた。
開けると、自分を盗撮したかのような写真がたくさん入っている。
一枚、手紙が入っていた。
その字を読んで、菜々子は凍りついた。
菜々子ちゃんをレイプしたい。
服をビリビリに破いて、泣き叫んで抵抗する中、押さえつけ、デカい胸揉んでやりたい。
濡れてないまんこに無理矢理ぶちこんで、俺の精子ぶちまけて、妊娠させたい。
怖い。
胸が締め付けられるように苦しい。
自分を不安な気持ちにさせるために書いただけだろうが、気持ち悪さと恐怖感で息が上手に吸えなかった。
菜々子は手紙と写真類を鷲掴み、鞄に突っ込み、さっさと教室を出た。
こんな恐怖感でいっぱいのときは、颯や太一、涼真に助けてもらおう。
菜々子の教室から、一番近いのは、太一のいる5組。
入り口から覗くと、廊下に面した席に太一が座っていた。
「いた」
菜々子は廊下と教室をつなぐ窓から、声をかけようとした。
しかし、動きが止まる。
太一がものすごく真剣な顔で書類をみつめていたからだ。
まるで、周りの雑音なんて、一切聞こえないような集中力。
これは、たぶん、ラグビー部の成績か作戦かをいろいろ考えているか、生徒会の仕事のことだと思う。
菜々子がとどまっていると、後ろからふぃっと現れた男が、普通に太一声をかけた。
「太一!これ、生徒会のやつなんだけど……」
「おっせーよ。昨日くれって言ってただろ。あ……」
太一と目が合った。
「悪い。悪い。でもさ、朗報だぞ!ここ……」
菜々子は大丈夫と視線を送ると、太一から、ごめん、また後でなと返ってきた。
「で、いいと思うんだ」
「おー。いいじゃん。解決」
生徒会のメンバーと話し込む太一をしばし眺めると、菜々子は自分の教室へ脚を進めた。
太一って、忙しいんだよなー。
部活に、生徒会に、いろんな人から必要とされて。
過労で倒れないか心配になりつつも、菜々子はそんな頼りがいのある太一が好きだった。
責任感のある男ってカッコいい。
あんな愚痴話、忙しそうな太一の邪魔して話すことでもないし……。
菜々子はまた時間見つけて、颯に話そうと、その場を去った。
「広瀬菜々子ちゃん」
聞きなれない女性の声に振り返る。
そこには、ものすごく美人で、スレンダーな女性が立っていた。
1組の新美レイラだ。
美人で校内では有名で、しばしば、男子の間では、可愛い系の菜々子派か綺麗系のレイラ派かで、議論がされるほどだった。
「あ、私?」
「うん。私、1組のレイラって言うんだけど、ちょっと頼みたいことがあって」
「え、あー、うん」
面識のない人にいきなり頼み事はたいてい、連絡先知りたい人がいてーとかそういうのだ。
めんどくさいなと思い入れつつ、一応話は聞く。
「私、実は、地元の町おこしの一環で、城下町戦隊みたいなのあるでしょ?」
「あー、うん」
「私、あのお姫様の役してるんだよねー」
「あー、あのポスターの、レイラさんだったんだ」
着物を着て、簪いっぱいさしたお姫様の格好をしたポスターが商店街にいっぱい貼ってあった気がする。
「そうそう。でね、もう一人、お姫様増やしたいと思ってて、菜々子ちゃんにやって欲しいんだよね」
「え?私!?」
「うん!今度イベントがあって、お姫様のカッコして、一緒に街の案内とかして欲しいの」
「あ、あたし、そんな、お姫様って柄じゃ……」
「お金も出るよ。日給2万円」
「2万円!?」
それだけあれば、颯と太一の誕生日プレゼントは用意できそうだ。
おこづかい月3000円の菜々子にとって、かなりの報酬だった。
「じゃあ、やろ!詳しい話、立ち話もなんだから、今からうち来ない?紹介する動画があって、それ見せながら、詳しい説明したいんだよね」
「うん。わかった」
見た目、性格キツそうだから、話しづらいかなって思ってたけど、思ってたより普通の子だなー。
それより2万円何に使おうとそればかり菜々子は考えていた。
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