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 いい匂いがして目が覚めた。ぼんやりと天井を見上げて首だけ横に向ける。 すると、開け放たれた扉の向こう側、キッチンに志築くんの姿が見える。    よいしょ、と体を起こせばおでこに冷えピタが貼られていることに気づいた。救急箱に入っていたそれはずいぶん昔のもので、消費期限が切れていた。一応使えないかとひとつ剥がせて確認してみたものの、ジェルが固まってしまい、冷たさもなかった。だから諦めていたんだけれど。  …買ってきてくれたのかな。  お水の入ったペットボトルの隣にストローの付いた蓋付のスポーツドリンクが置かれていた。冷たさが逃げないよう、保冷剤を包んだタオルで巻かれている。  それに有難く手を伸ばせば志築くんがこちらに気づいたようだ。  目を丸くした彼はすぐに優し気に目を細めると、近づいてくる。  「気分はどうですか?」  「…悪くないわ」  「何か食べますか?お腹空いたでしょう?」  よく眠ってましたよ、と言われて携帯を探す。時計を見ればもう三時を過ぎており、朝彼が来てくれた後、今までぶっ通しで寝ていたのか、と驚いた。  「…お腹、空いたわ」  「桃缶、買ってきましたよ。ちょうど今おかゆも作ってます」  おかゆ?   不思議そうに首を傾げる私に志築くんは柔らかく微笑む。  「食べて、薬飲んで寝ましょう。そしたら熱が下がるのも早くなりますよ」  志築くんに言われて素直に頷いた。  彼はそんな私を見て降ろしていた腰を上げる。  「起きられますか?」  「ええ」  「なら、そこへもっていきますね」  志築くんはにこりと笑うと食事の準備を始めてくれた。
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