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 時間を見ればもう夜も八時だった。彼は簡単に夕食にうどんを作ってくれた。  そしてその後に桃が出てくる。  「志築くんは、ご飯食べないの?」  さすがにうどんは「あーん」できないので(志築くんはしようとしていたけど)自分で食べた。  その流れで桃も自分で食べている。昼間のような拷問はごめんだ。  「さっき、部屋に戻って食べてきました。その間に彩羽さんが起きたみたいで」  そういうこと、と納得する。  「なんかごめんね」  「…どうして謝るんですか」  桃が入ったプレートを静かに置く。  隣で呆れた顔する彼を見上げて「何か間違ったかな」と俯いた。  「…そこは『ありがとう』でいいんです。むしろ、もっと頼ってほしい」  志築くんは私の手を静かに掴むと自分の頬を摺り寄せた。  「俺は頼りないですか?どうしたらもっと内側を見せてくれますか?」  志築くんの声が、目が熱い。  私はどうすればいいのかわからなくて逃げるように手を引っこめた。  「………あの、ありがとう」  「…いえ。俺がしたくてしてるだけなので」  志築くんが力を抜いたような笑みを見せる。  彼は私に薬を飲ませるとすぐに寝るように促した。  その間にささっと後片付けまでしてくれる。  「ご…ありがとう」  「これぐらいいいんです」  彼はベッド脇に座りこむと「はい」と手を差し出す。  よくわからずに首を傾げれば彼の手が布団の中に潜り込んできた。  「眠るまで傍にいますよ」  「…大丈夫よ。だから」  「心配しなくても寝たら帰ります。あ、ポストに鍵入れておきますね」  うん、と頷けば優しい笑みが返ってくる。  お腹いっぱいになったせいか、とろとろと微睡む時間は一瞬ですぐに深い意識の奥に落ちていった。          
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