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 「おかしいわ」  体調不良から十日が経った今。私はひとり部屋で食事をしながらぽつりと零した。  何がおかしいのかと言えば、風邪をひいて戻ってきた後の志築くんの態度が妙に余所余所しい。  いや、今まで妙に馴れ馴れしかったから普通と言えば普通だ。  でも、いつも必ず週のどこかで仕事終わりに食事をしたし、休みの前日は「どこ行きますか?」と予定を聞いてくれた。  毎日のように鳴った連絡はパタリと止み、仕事に必要な話はすれど彼はそれ以上会話を広げることもなく淡々と仕事をこなしていた。  それが普通と言えば普通なのに、私は妙に物足りなさを感じていた。  それがさっきの「おかしい」に繋がるのだけど。    「仕事なら仕方ないのだけど」  彼は最近夜遅いお客様の対応で午後出勤が多い。おまけに休日は朝からフェアやパーティーやらと働きすぎだ。プリエールは既定の四十時間の残業時間を超えそうな場合、別日で振り返ることができる。  例えば、パーティーとフェアで遅くなり、その日だけで五時間も残業してしまった場合は、その五時間を別日に当てて早退、もしくは遅出にすることができる。  そして志築くんはただいまそれを繰り返している状態だ。  確かに仕事終わりに打ち合わせがある場合はあるけれど、そんなにも忙しいのかと私は怪しんでいた。  そもそもコントローラーの私がよく知らないってどういうこと。  支配人と二人、何故かこそこそしているような雰囲気がある。  何か隠されている気がしてなんとなく気に食わない。  でもそれを突っ込んで聞く気にもなれない。  というのも、志築くんはキャリア志望。おまけに男性プランナーで唯一の独身者。  もしかすると、いずれ本社に、もしくは他グループ会社への移動も含めて色々と勉強しているのかもしれない。  
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