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 「もうこうなったら片っ端から探すしかないわね」  時刻はもう八時を過ぎた。島谷さんと丹羽くんには先に帰ってもらう。  志築くんも「峰さんも帰ってください」と言ってくれたけど、ペアを組んでいるのにそれはできない。  それに、こんな時なのに志築くんと話せることに少しだけ喜んでいる自分がいる。  仕事に私情を持ち込むつもりはないけれど、『仕事』と称して志築くんと関われるのは何故か分からないけれど少しだけ嬉しい。  「他探していないところはどこ?」  「控室と化粧室と、あとは…キッチンですね」  それでもそんな気持ちを出さないようにいつも通りに努めた。志築くんが若干難しい顔をして考えを巡らせている。  「それならキッチンの倉庫も探さないとね」  もうこんな時間なのでほとんど人は残っていない。今夜は夜のパーティーがないので殆ど全員が帰ってしまった。    私は失礼を承知でキッチンの中に入る。    「どこを探すつもりですか?」  「キッチンの戸棚とか」  「いや、あるわけ」  「分からないわよ」  参列者の衣装、しかも新郎側のお父様のモーニングとお母さまの着物。  大体モーニングは黒いスーツ入れのようなものに包まれてハンガーにすぐに掛けられる形式で送られてくる。が。  「例えば、段ボールに入っていたら?」  「…送り状に『衣類』の記載」  「なかったらどうする?」  うっと言葉に詰まった志築くん。ついにその可能性を疑い始めた。  「それなら、食品倉庫の方が怪しいですね」  「丹羽くん調べてくれたんじゃないの?」  「いや、多分そこは探してないと思います。それに鍵必要ですよね」  「確かに。鍵は事務所ね」  怪しいという志築くんの言葉に従って私は一度事務所に戻ることにした。志築くんはその間に、念のため大きな冷蔵庫の中を確認し、食品倉庫の前に待ち合わせをする。  私が鍵を取って戻ってくれば彼はすでに待っていた。  小さく首を横に振る彼を見て「なかった」ということだけはわかった。  「……寒いわね」  「彩羽さん、また風邪ひきますよ」    
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