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 「あれ?峰さん?おはようございます」    いつもより一時間ほど早く来た志築くんだったが、私はその三十分程前に到着していた。  昨夜の志築くんの行動が気になって、眠れず結局朝早く目が覚めた。  おまけに衣装のこともあったので、家で悶々とするぐらいなら早く来た方がいいと思い早く事務所に来たのだ。  そして早速衣装の皺を確認。  昨夜より幾分薄くなった気がする。  「おはよう。早いのね」  「いや、それは俺の台詞…ってちゃんと寝ました?」  目ざとい志築くんの言葉にドキッと心臓が跳ねる。  彼は私に近づくと上からしっかりと顔を覗きこんできた。  「ちょ、近い」  「目の下、隈。隠せてないですよ」  「だ、大丈夫よ。後で直すし」  「そもそも、俺が早く来るのはわかりますけど彩羽さんが早く来る必要ないですよね」  「あ、あるわよ。私だって無関係じゃないもの」  なんだか蔑ろにされた気がしてちょっと、いやかなり落ち込んだ。  ペアを組んでいるのにそこは遠慮しなくていいと思う。  そう思ってハッとした。  ついこの間、といっても一か月ほど前だけど志築くんに言われたことと同じことを自分が思っていたからだ。  「彩羽さん?」  それを自覚した瞬間何故か急激に恥ずかしくなった。  今まで誰かに頼ってもらえなくて落ち込んだことはあっただろうか。  蔑ろにされることぐらいあった。というか日常茶飯事だった。  特に学校生活はずっと邪魔者扱いだったし、頼りにされたことなんてなくて、それが普通で日常で当たり前だから別にそんなこと。  「どうかしました?」  「あら?お邪魔だったかしら?」  そこに池上さんが来てくれた。私たちの様子を見て何か勘違いしてしまったらしい。「おほほほほ」と笑いながら「これが昨日言ってた衣装ね」とすんなりと仕事の話になる。  「はい。そうですね」  「朝早くからありがとうございます」  「いいのよ~。さわちゃんの頼みなんだから」  ね、と言われて曖昧に頷いた。  そして、頭の中を整理したくて私はその場から逃げるように立ち去ったのだった。  
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