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 「…悲しい、ことしかわからないわ」  志築くんのパーティーは何事もなく終了した。ただ、一点今回の事件を踏まえていくつか注意事項が加わった。全館に周知されたそれに同情の視線をもらった志築くんの株はまた上がったように思う。  そして数日後の今日。休みの日。私はここ最近ずっと抱えていた問題にまだ答えを見いだせないでいた。  きっと就職活動以来じゃないかと思うほど自分に向き合っている。  先日のやり取りもそうだけど、出逢ってから今日までのことを振り返ってみた。  すっかりと鳴らなくなった携帯を握りしめて、もう一か月以上前のメールを読み返す。本当に他愛ない内容ばかりで、自分のメールの返しが素っ気なさすぎる。それなのに志築くんは会話を続けてくれていた。  『そうね』とか『そうなの』とか、酷すぎる返ししかしてなくてきっと志築くんもこんな私に付き合うのがつまらなくなったのだろう。    「…どうしたらよかったのかしら」  もし、今これと同じメールをもらった時、私はどう返すだろう。  きっと同じように返す、と思う。  こういうコミュニケーションは苦手だ。  でも、苦手だからと放置した結果こんな風に悩んでいる。  志築くんのような話題がない。話を広げるの術もない。仕事なら普通に話せるのに、プライベートのことになると途端に何をどう会話にすればいいのかわからなくなる。  「…買い物に行こうかな」  朝の間に掃除をしてしまった。お昼ご飯を食べて録画していたドラマをただつけっぱなしにして頭の中をスルーしていく。  気分を変えたくて重い腰を持ち上げると、ドラマが途中であるにも関わらずテレビを消して買い物に行く準備を始めた。
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