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 翌日、私は早速島谷さんに携帯を変えたことを報告した。すると「昨日の今日で?」と驚かれたものの、それがすぐに坂巻さんに伝わったらしく、昼食の時間を合わせようという話になる。  「やる気満々ですね」  「ええ」  「正直、峰さんはあまり恋愛とか興味ないかと思っていたんですよね~」  意外です、と島谷さんが呟く。  彼女たちにはコミュニケーションの勉強とは言ったけれど、ゆくゆく将来的なことを考えて、と訂正しておいた。  今、プリエールにご来館してくださるお客様の中にも実際アプリで出逢ったお二人様は多い。仕事という意味でも役に立ちそうだし、苦手なコミュニケーションを少しでもなんとかできるかもしれない。  そんな期待を抱いて、彼女たちの輪に入れてもらうことにした。  「…興味ないわけではないわ。ただ、自分から動くことが苦手で」  「そうですね~。峰さんはがっつくタイプにも見えないですし」  「…でも、このままひとり寂しく死ぬのかなと思うと」  「ちょ!重いです!重い!っていうか飛躍しすぎ!!」  島谷さんが慌てて否定してくれたけど私にはそんな未来がとても想像できた。こんなきっかけがなければ多分、このまま会社と家の往復を繰り返して、気づいたら六十歳で定年退職して慎ましい年金生活を送ってひとり寂しく死ぬのだろう。  そして、体は老いていくのに、心はどこかで少女じみた妄想を追いかけている。無理だと分かっていても、一生に一度ぐらい、こんな私にもそういう幸せが合ってもいいじゃない、と思ってしまう。  でもきっとこのまま何もしなければそんな幸せはいつまで経ってもやってこない。夢見る夢子はもう卒業しよう。  志築くんには愛想を尽かされてしまったけれど、それでも変わるきっかけをくれた彼には感謝している。    
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