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 「…たった五日。俺が夏休みで不在にしていた五日の間に何があったんですか。コミュニケーションの勉強?んなわけないでしょう?いつも冷静なあなたが、その日のうちに携帯を替えて、しかも今まで興味もなかった人との繋がりを求め始めた。教えてください。どうして、そんなに急に変わってしまったのか」  頬を撫でていた手が静かに止まる。「ねえ」と追随するように訊かれても、私はすぐに上手い答えが出てこなかった。    「…このままは嫌だと思ったの」  たっぷり間を空けたのに志築くんはただ黙って待っていた。私を見下ろすその目は冷ややかだけど、答えるまで逃がしてくれそうになかった。  「何が嫌なんですか」  「…うまく、人と付き合えないまま年を重ねていくのが」  志築くんは片方の眉を上げると怪訝な顔で先を促した。  「…志築くんとのメールのやり取りを見返したわ。私『わかった』とか『そうね』ばかり返して、全然キャッチボールになっていなかったことに気づいたの。だから、志築くんに愛想つかされたのかと思って」  志築くんの眉間に深く深い縦皺が三本くっきり出来上がった。    「…俺が、いつ、貴方に愛想を尽かしたと言いました?」  「…………言われてはないわ」  「なら、誰かに吹き込まれたんですか?」  彼は「誰ですか?」と顔を近づけてくる。  端正な顔が近づいて来て、思わず息を止めた。   
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