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 自分でも何を言っているかわからないぼんやりとした気持ちを志築くんに正直に伝えた。言葉を選んだせいで伝えたいことがかなり曖昧で的を得ていない気がするけれど、彼は最後まで耳を傾けてくれた。  「…提案があるんですけど」  そして、全て聞き終わったあと、志築くんが口を開く。    「お試しで付き合いませんか?俺と」  オタメシデツキアウ?オレト?  「…つ、付き合うって」  「俺の彼女になるっていう意味ですよ。何処に?とかいうボケはいりませんから」  頭がパニックになった私に彼は有無を言わせない笑顔で黙らせた。  目を白黒させて慌てふためく私を志築くんは楽しそうに眺めている。  「…彩羽さんは自分が思っているより表情も豊かだし楽しい人ですよ。コンプレックスだと思っているツールコミュニケーションについてはそのままでもいいと思いますけど、気になるなら俺が練習台になりますから。俺とメッセージのやり取りしましょう?」  この状況で「いや」とは言えない。もちろん、この時の私には少なくとも断る理由がなかった。  「休みの日は今まで通り、どこか遊びにいきましょう。仕事終わりは一緒に飯食って、テレビを見たり、映画を見たり。少しずつでいいんです。こうして俺が触れることも許してほしい」  彼はそう言うと、私の髪を片方に集めて、集められた方とは反対側の首に唇を押し当てた。柔らかい感触とほんのりとした温もりに驚いて体が跳ねる。  「!!」  「少しずつ慣れましょう?」  色んなことに慣れていない私は胸も頭もいっぱいいっぱいで、「ね?」と押し切られればただ慌てて小さく何度も頷くことしかできなかった。
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