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 初めこそ、彼のスキンシップに戸惑い固まりガチガチだった体も、一か月も経てば慣れてしまった。むしろほわっと心が温かくなり、彼の体温を感じていることに安心感と安らぎを覚えるまでになっている。  人って慣れるんだな、と感心しつつ、今夜も志築くんの部屋に向かう。    今日志築くんはお休みだった。お休みの日は、彼が食事を準備してくれる。  私が休みの日は私が準備する。フェアやパーティーで遅くなる日は外食したり、簡単に食べられるご飯を食べる。  彼はどんなご飯でも「おいしい」とほめてくれるし、疲れた日は「作らなくていい」と言う。スーパーで買った冷凍食品を温めるだけの日もあったりするのに、自分で作った料理を一人で食べることよりおいしく感じたりする。  「お疲れ様。おかえりなさい」  チャイムを押すと、志築くんが待ち構えていたように扉を開けてくれた。  部屋の中からとてもいい匂いがする。  「…ただいま」  おかえり、ただいま。  このやり取りはとても恥ずかしくて未だに慣れない。  おばあちゃんが生きていた頃は、学校に行く私に毎朝彼女が言ってくれたけど、もう二十年以上も昔のこと。その時はそれが当たり前だと思っていたし、それがこんなにも気恥ずかしいことだと思わなかった。  「今日はシチューにしました」  「シチュー」  「ええ。もうすぐハローウィンですし、パンプキンシチューです」  といっても市販のルーですけど、と彼は付け足す。  「ううん。ありがとう。ひとりだとシチューは作らないから嬉しいわ」
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