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「彩羽さん、眠いですか?」
「うーん?」
「寝てもいいですよ」
クスッと笑う声が頭上から聞こえておずおずと顔を上げた。
ケーキを食べてソファーに座ってテレビを見ていたところまで覚えている。
だけど、いつの間にか彼にもたれてうとうととしていたらしい。
「お腹いっぱいになると眠くなりますからね」
志築くんが私の頭を優しく撫でながら眠気を助長させる。
まるで「いい子、いい子。寝てもいいよ」と言うように私を夢の世界に誘った。
その誘惑に勝てなかった私は目を覚まして悶絶することになる。
「…!」
志築くんは私を抱きしめたまま、ソファーで眠っていた。
長い脚を放りだして、器用に私を片手で抱き寄せたまま綺麗な顔して眠っていた。
その顔を下から見上げて息を止める。
少しでも物音をさせたら彼が起きてしまうと思ったからだ。
でもやっぱりずっと息を止めるのは難しくて、忍び隠れるように息を殺して呼吸をする。
閉じた目を隠す長いまつ毛は黒々としていて、優しい目元が今はあどけない印象をもたらす。いつもカチカチに固めている髪の毛がサラサラで、わずかに開いた唇の隙間から小さく聞こえる寝息に胸がきゅんと苦しくなる。
「…あれ、起きたんですか」
ただじっと見つめていただけなのに私は彼を起こしてしまったらしい。
むにゃ、と寝ぼけた声と眠そうな目が合った。
だがその目は直ぐに閉ざされてしまう。
「…もうずっとこうしてたい」
言葉とは裏腹に眉間に皺を寄せてとても苦しそうな表情をした彼は、起きてしまったことを見なかったことにするかのように再び夢の世界に旅立った。
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