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ホッと安心したのもつかの間。志築くんがひとつだけおねだりしてきた。
「じゃあ、彩羽さん。ごめんなさい、の意味でキスしてください」
え。
そのお願いに固まる私を他所に志築くんの目は真剣だ。
というか、若干目が哂っていない。
「もちろん、口にですよ?」
ほら、と彼は私を抱えなおして体の向きを変える。
逃げることもできずに視線を彷徨わせていると志築犬の耳としっぽがしゅんと垂れる。
「…いやですか」
「そういうわけじゃ」
「じゃあ、いいですよね」
途端に「るん♪」と喜びを表す彼の言葉に「やられた」と俯いた。
志築くんはこういう引き合いがとても上手だ。というより私が下手すぎるだけなんだけど。
「分かりました。俺が口以外にするのでいいタイミングで口にください」
…分かったの意味が分からないわ。
「キスしてると口にしてほしくなるじゃないですか」
……経験値がない私にそんなこと言うの?
しかもいいタイミングって、いつ?どのタイミング?
「フフフ。悩まなくていいんです。素直に心の赴くままで」
そ、そんなこと言われても分からないわ。
「ちょ、ちょっとだけ待って」
「無理ですよ、もう。俺怒ってるんですから」
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