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グイッと腰を抱き寄せられて頭を固定された。志築くんは細身に見えるけどこういう時やっぱり異性だということを意識させられる。
「…ん」
志築くんの唇が頬を掠めて耳の下あたりに着地した。顔を逸らしたせいで、余計に際どい場所にキスされたことに内心焦る。
「…耳は弱点かな」
「…!」
しっとりと濡れた声。今まで聞いたことのないトーンで囁かれて背中がぞわぞわする。怖いわけではないけど、なんだろう。全然知らない人みたい。
「あ、の」
「ん?」
頬や耳やと至るところにキスされて逃げることもできない。
志築くんは私の目尻に唇を寄せたまま器用に首を傾げた。
「…タイミング、とか分からないわ」
なんとか、ようやく言った言葉がそれで志築くんは目を丸くするとすぐに破顔した。くしゃくしゃと笑う顔はさっきまでのしっとりとした時間が嘘のよう。
「じゃあ、目つぶって待ってます」
はい、どうぞ。
志築くんは目を閉じて口元を引き結ぶ。でもその唇の端がふるふると震えていて、「また志築くんに怒られるかも」と思いながらも、その唇がいつ限界を超えるのかただじっと見つめていた。
「…まだですか?」
だが、残念ながら限界は超えなかった。なかなか動かない私に痺れを切らした彼は器用に片目だけを開けて様子を覗っている。
「…こ、心の準備が」
「十分にあげたじゃないですか」
「…私には一瞬だったわ」
不貞腐れる志築くんに小さな抵抗を試みる。彼はやがて「仕方ない」と折れてくれて最大の譲歩だろう。「ここでいいですよ」と自分の片頬を指した。
それなら、と私は小さく深呼吸をすると向けられた頬に顔を近づける。
「!!」
だけど、あと一センチ、というところで志築くんの顔がくるりとこっちを向いた。
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