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 触れ合った唇は少し熱くて濡れていた。  驚いて目を丸くする私が、志築くんの瞳に映っている。彼の目がフと弓なりになる。言葉もなく「逃げるな」と言うように、腰を抱く腕の力が増した。  「…鼻で息して」  無意識に止めていた息を静かに吐き出して吸い込んだ。  志築くんの瞳が笑う。彼は少し唇を離すと、今度は角度を変えてキスをした。目を閉じた彼の顔が視界いっぱいに広がる。遅れて「目を閉じなきゃ」という思考が働き慌てて目を閉じた。  ほんの数秒か、十数秒か分からない。けど、自分以外の誰かの息遣いを気配をこんなにも近くに感じることにドキドキして、正直心臓が壊れるんじゃないかと思う。  「…彩羽」  静かに、後ろ髪を引かれるように唇が離れていく。それを少しだけ寂しいような、安心したような複雑な気持ちで見つめていると、志築くんの掠れた声が私の意識を引き寄せた。  「キス、気持ち悪くなかった?」  「…うん」  「よかった。息止めてたときは笑いそうになったけど」  「酷い」  思わず恨みがましい目を向けると彼はとても穏やかに、だけど嬉しそうに笑う。  「可愛いなって思っただけだよ。こんなにも真っ白な人なかなかいないから」  「…褒められてる気がしないわ」  「褒めてるんだよ。彩羽さんみたいな人、貴重ってこと。すごく、眩しいぐらい」  彼は眉を下げて笑うと私の顔を覗き込む。まだ信じ切れていない目で彼を見ていれば「本当だって」と笑われた。  
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