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志築くんに言われなければきっと気づかないことだった。
そっか、私嬉しそうにしてるんだ、と言われて初めて自覚する。
「…今気づいたの」
「遅い!ってか、彩羽さん、自分の気持ちにもう少し敏感になってください」
「…難しいわね」
真面目なトーンで返した私に志築くんが呆れる。
「キスしようとすると、彩羽さん、目元がとてもやさしくなるんです。表情も砕けた感じになるというか、柔らかくなるというか」
へぇ、と自分事のように思っていると志築くんの「まあいっか」で我に返る。
「その顔、俺が独り占めできるってことですよね。だったらいいや」
どういう納得の仕方だよ、と思わず突っ込みそうになったけど、志築くんが何故かるんるんと嬉しそうだから何も言わないことにした。
彼が尻尾振ってニコニコしている姿は可愛いからしばらく眺めておくことにする。
とはいえ、そのしばらくは僅か数秒で終わってしまったけれど。
「もっと、距離が近くなるキスしませんか」
「距離が近く?」
「物理的な距離じゃないですよ」と間髪入れず志築くんが補足する。
「もっとこう、恋人たちがするような」
「…コイビトタチ」
「(仮)ですけど、俺たちも恋人でしょう?」
(仮)だけど世の恋人たちがするキスをする。その拒否権を私は持っていて、きっと志築くんはオブラートに包んで私の反応を覗っている。
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