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 「夜ごはん、何しよう」  セックス、なんて一生ご縁のないものだと思っていた。  可能性としてあるとすれば、家族を作る、意味での必須行為。  そこに最低限の愛情はあれど、いわば義務みたいなものだ。  「…夜ごはん」  だけどきっと、志築くんとするそれは違うと思う。  キスをするのも、抱きしめあうのも彼はすべて「コミュニケーションですよ」と言うのだ。    『言葉でうまく表現できないなら、行動で表してください。キスでもハグでもいいですよ』  あくまで(仮)のコイビト関係。世間一般の恋人と何が違うかと言えば、ただ、志築くんが私の気持ちが追いつくのを待ってくれている。  だから、クリスマスを待たずとも私が気持ちを志築くんに伝えれば(仮)は取れる。晴れて本当の恋人同士になる、はず。.  でも、この期に及んでまだぐちぐち言えるのなら、「好き」とか「愛」とか正直よくわからない。  彼と同じだけのものを返せるか自信がない。いつも彼が私に与えてくれるものは言葉に表せられないほど、キスやハグで表せないほどのたくさんの気持ちだ。  人のあたたかさ。誰かと過ごす時間の楽しさ。彼の隣にいる時間は、不思議と心地よく安心もする。年下なのに、私よりしっかりしてるし、心強さもある。  「…それは嫌だわ」  志築くんは、黙っていてもモテるし正直に言えばやっぱりどうして私なのって不安にもなる。こんなにも良い人なら、もっと良い人がいるはずなのに、と思ってしまう。  それでも今、自分の傍から彼がいなくなることを考えるととても怖い。  彼の傍にいられなくなる、なんて冗談でも考えたくなかった。  「…なんていうのかしら。…沼?」  たった二か月なのに、彼と日々を過ごして、この生活が失われることが怖いと思うようになってしまった。それを今の若い子風に言葉にして苦笑する。  「抜けられないわね、これ」  もうきっと、私は『志築智紘』という沼にハマっているのだろう。  ううん。多分、もっと早くから。きっと彼にハマっていたのだと思う。
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