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 志築くんは私の答えを待つことなく歩き始めた。光の世界に吸い込まれる彼の後ろを追いかけるように続く。  私を待つように一拍立ち止まった彼は、隣に並んだのを確認するとぽつりとこぼした。  「腹減りましたね」  「うん。てっきりご飯に行くのかと思ったわ」  「まぁ、飯も。…そうですね。この辺でどこか適当に入ります?」  この辺で、と彼は言うけれど目立ったレストランは見つけられない。  合ったとしても、大抵閉まるのが早かったりする。    「最寄りついてからでもいいわよ。探すの大変じゃない?」  「…そうですね。それなら家でのんびり食いたいかも」  そうすれば、ゆっくりレッスンできますし?  志築くんが少し屈んで耳元でひっそりと放った一言に顔が熱くなる。  もう、殆ど毎日しているのに、このレッスンはなかなか慣れそうになかった。  「たまにはこうして外を歩くのもいいかな、と思ったんですけど、失敗したかなー」  志築くんがうーんと空を見上げる。彼の吐き出した白い息が光の中に吸い込まれていく。  「…全然、失敗じゃないわ」  「…そう?」  「うん。こういうイルミネーションを、誰かと見たことがないから」  彼が私のことを考えて連れ出してくれたことは理解していた。  そのうえで、彼は「自分が見たい」と言ったんだと思う。    繋いだ手はほんのりと暖かい。頬は外気に触れて冷たいけれど、ライトアップされた光のせいか、それともこのシチュエーションにあてられたのか、それほど寒さは感じなかった。  「…だから、嬉しい」  きっと私たちは周囲から見れば「恋人同士」のように映っているんだろう。  この人波に紛れて普通の恋人同士に映っている、はず。  それが嬉しいような恥ずかしいようなくすぐったいような。  言いようのない形容しがたい気持ちになる。  
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