4481人が本棚に入れています
本棚に追加
歩きながらショートブーツのつま先を見つめた。イルミネーションのおかげで、足元が明るい。彼のスニーカーも目に入った。先日一緒に買い物に行ったときに悩みに悩んで買ったスニーカーだった。
彼の優柔不断な一面性はとても意外だった。
いつもテキパキと何でも決めてしまう彼だからとても凄く悩む姿が新鮮だった。
その時のことを思い出してひっそりと笑っていると、力強く繋いだ手が引き寄せられる。
「彩羽さん」
驚いて見上げれば、もうすでに目の前に彼の顔があった。避けることもできず、避けようとも思えず、ただ受け入れる。
冷たくなった唇にほんのりと伝わる熱。
それが、じわじわと胸に広がる想いになる。
「あんまり可愛いこと言わないでください」
一秒だったか、三秒だったかは分からない。
だけど、最近慣れてしまったキスとは違う、あっさりとしたキスだった。
それを寂しい、と思ってしまう自分がいる。
名残惜しそうに離れていく唇を見つめているとあっという間に抱きしめられてしまった。
!!!
こんな、キラキラの世界で抱きしめるとか、おとぎ話かと思ってしまう。
誰に見られているのかも分からないのに、という羞恥心よりも「こういう話前に読んだことある」なんてどこか他人事のように思う。
「あの、志築くん」
「ん?なんですか」
「その…恥ずかしいわ」
こんなところで、と言えば彼はさらに腕に力を籠める。
「誰も見てませんって」
「……見てるわよ」
「じゃがいもとさつまいもと大根ぐらいにしておきます?」
そういう意味じゃないのに、と顔を上げれば、愛おしい気に目を細めた彼が顔をくしゃくしゃにして笑った。
あ、笑った。
いつも笑っている彼なのに、この時の彼のこの笑顔はやけに色鮮やかで心臓をぎゅっと鷲掴まれた気がした。痛いほど締め付けられて息が止まりそうになる。
最初のコメントを投稿しよう!