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 志築さんを見送りオフィスに戻れば、支配人がいそいそと帰る準備をしていた。  私を呼んでおきながら先に帰るのか、と思わず鼻頭に皺を寄せる。  「腹減った。飯行くか?今ならまだ空いてそうだしな」  平日の午前十一時半を過ぎたころ。  建物の周囲はオフィスがあり、所々に食事処がある。  私はひとつ頷くと直ぐに着替えて従業員口を出た。    「理由分かったか?」  寒い、温かいものがいい。という支配人の要望に近くのうどん屋さんに向かう。  支配人は天ぷらそば大盛りとかつ丼を注文した。なぜうどん屋でそばを選ぶんだ、と言いたいが彼がそば好きなのは今に始まったことじゃない。ついでに此処で彼が頼むのはいつもこれだ。もちろん私はうどんにした。いつもの、きつねうどんだ。  「あー。はい」  支配人がそばを啜りながら上目遣いで蕎麦の汁を啜りながら訊ねてきた。  四十を過ぎた男がそんなことをしても全然可愛くはない。が、今はそんなことどうでもいい。 「もし、なんか言われたりしたら言えよ。まあ、ないと思いたいが」  うちの社員は気のいい子が多い。だけど、女性だらけのせいか異性には貪欲だ。きっと彼の見た目で早々にロックオンされるだろう。仕事に私情は挟まないと言えど、人間何をするかわからない。  特に二十代半ばの彼女達は、精力的にパートナー探しをしているという。  合コン、というともう古いらしいけど、マッチングアプリや婚活への参加は彼女たちの中で常識らしい。  
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