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 ___これが恋というものだろうか。  その疑問は答えを出すまでもなくストンと腹に落ちた。そうかとひとりで納得してしまった。  あいたい、と思う気持ちも、彼がいなくて寂しいという心も。  近づきたいのに近づけない怖さも、臆病な自分も。  初めから人と壁を作っていた私にすんなりと入り込んできた彼はいつも笑顔で眩しかった。  私には勿体無いほどの彼は屈託なく笑う少年のような人だ。    憧れもあったかもしれない。  こんな無愛想の私に初めから優しくしてくれたこと。好意を伝えてくれたこと。それが嘘じゃない、と態度と言葉で示してくれたこと。  そして、こんなにも私のことを想って行動してくれること。  それをすんなりと受け入れてしまう自分にもどこか呆れがあったけど。  それはつまり。  多分初めから。出逢った時からきっとそう。  全部ひっくるめて彼はずっと特別だった。    「…すき」  コップから溢れ出たような感情の波が今の自分の気持ちを言葉に変えた。  あんなに悩んだ。どうしようとネットサーフィンで寝不足になるほどに。  それなのに、本番を待たずしてついこぼれてしまった。自分でも驚いてどうすればいいか分からない。  「あ、あのっ」  志築くんがとても驚いた。それに驚いた私は慌てて否定の言葉を発してしまう。  「ち、違って」  ずい、と彼の顔が近づいてた。慌てて押し返そうとして首を亀みたいに引っ込めた。  それでも志築くんの顔はとても真剣で両手を捕まえられてジ・エンド。  「違うんですか?」  「……………ちがいません」  そう否定するので精一杯で、なかなか次の言葉がでてこない。おかげで志築くんにずっと見つめられている。とても恥ずかしい。湯気がでそう。  鏡を見なくてもわかるほど、決して寒さのせいでもなく顔が赤くなっていることは容易に想像がついた。  「なら、嘘ですか」  「……嘘、じゃ、ないわ」  「もう一回聞きたいです」  え?    
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